撮影:井上 みなみ
“捨てること”、循環の“穴”を捉え直す。北山ホールセンターがアーティストやクリエイターと考え実践する、資源循環の取り組み
撮影:井上 みなみ
そんな噂の源は、京都市北山・清滝川のそばにある、大きな木造の林業倉庫を活用した北山ホールセンター。共同工房として使用されつつ、資源循環のさまざまな取り組みを行っています。
2023年3月11日(土)12日(日)、この北山ホールセンターで、2日間の展覧会「Circulation Holes」が行われました。ものや、副産物産店、HOYの3組を主体とした、初めての試みです。
北山ホールセンターで活動を行う、ものや、副産物産店は、これまで使われなくなったものや廃材に新たな視点や価値を与え、それらを材料に作品をつくったり、修復して再び使う取り組みを行ってきました。その行為は、当たり前に消費される「循環」という言葉を、今一度再考させてくれます。
アートと資源循環の交差点とは?北山ホールセンターの主体である北山舎のメンバーの1人、アーティストであり副産物産店の仕掛け人でもある矢津吉隆さんに話を伺いました。
使われていない林業倉庫に価値を見出すことから始まった、北山ホールセンターという場所
杉田真理子(以下、杉田) 今回はアートと循環というテーマでいろいろとお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。まず、簡単に自己紹介をお願いできますか?
矢津吉隆さん(以下、矢津さん) 私は京都を拠点に、アーティストとして活動しています。いろんなことをやっていて、自身の作品を作る以外にも、アートのための場作りや、資材循環にスポットを当てた「副産物産店」という活動もしています。
杉田 私自身、北山ホールセンターについては噂を聞いて気になっていたのですが、実際に訪れてみて、まずそのサイズに驚きました!この場所ができた経緯や、矢津さんがここに関わりを持ち始めたきっかけを教えて頂けますか?
矢津さん きっかけは、建築史家の本間智希さんの運営する「一般社団法人北山舎」です。本間さんに声をかけてもらって、この北山という地域に初めて来たのが2017年頃でした。当時はあまり北山のことを知らなくて。北山杉とか北山丸太っていうワードを知っているくらいでしたね。
矢津さん 本間さんに、木造の巨大な林業倉庫が使われない状態で残ってるよ、と案内してもらって。使われてないなんて、なんてもったいないんだと思いました。見学し、これは面白いと思って、それから本間さんと一緒に僕も北山舎のメンバーとして活動させていただいてます。京都の中心部から車で30〜40分の距離感にもすごく可能性を感じましたね。倉庫でもあり、そこでアーティストが作品も作れる場所は、なかなか無いので貴重です。
杉田 背景に、北山舎という存在があるんですね。
矢津さん 北山舎は、本間さんを中心に、地域に関わりながらさまざまな物件を活用しています。僕自身も今まで空き家を活用したことはあったのですが、そのなかでも林業倉庫は初めてです。アーティストやデザイナーと一緒に、ものづくりと循環の拠点みたいなものを作りたいというアイデアが元々あったので、メンバーを募り、集まったメンバーと、この場所をどう運営していくか話し合いました。色んな活動をしている人たちが集まって、グループで活動していける共同体みたいなものを作ろうというアイデアのなかで生まれたのが、北山ホールセンターです。
副産物産店の展示風景
杉田 今どういった入居者の方々がいらっしゃって、どんな人が出入りしているんでしょうか?
矢津さん これは偶然なんですが、集まったメンバーはそれぞれ、分野が微妙に重なりつつも違います。僕ら副産物産店はアートや場づくり、資材循環をしていますが、入居者である「ものや」は古道具屋をやっていて、古物を扱うだけでなくプロダクトの開発やデザイン、設計、店舗什器を作ったりもしています。「木村松本建築設計事務所」は、建築の設計チームです。
北山ホールセンター 入居メンバーの皆さま。それぞれ異なる職能を持った最強チーム!
矢津さん スタッフにも若い人が結構いますし、ブランディングやホームページ制作の得意なグラフィックデザイナーや、木工家具を作っているユニットもいます。このメンバーなら、建物ひとつまるっと作れちゃうし、プロダクトを作ってそれを販売するところまでもできると思っています。
梅小路公園にコンポストをつくるプロジェクトなど、北山ホールセンターとして少しずつお仕事を受け始めもしました。(※そのひとつの事例が「資源が“くるり”プロジェクト」。記事は こちら から)
”捨てる”という行為を再考する
杉田 偶然生まれたのが信じられないほど、最強のチームですね!今回の展覧会についても教えてください。
矢津さん 今まで北山ホールセンターはあくまでもクローズドな状態でずっと準備をしてきたんですけれど、そろそろこの場所を開いていくことにメンバーも興味があって。なので、展覧会をやろうという運びになりました。僕ら副産物産店をはじめ、入居者が出展作家として、北山ホールセンターのお披露目をした感じです。
杉田 今回は”捨てる”ということがテーマの主軸になっていますね。
矢津さん 展覧会のタイトルは、「Circulation Holes」です。ホールセンターっていう名前にもホールという言葉が入ってますが、ゴミ捨て場としての穴、という比喩があります。
小説家・星新一の作品 ショートショートの『おーい でてこーい』に、なんでも放り込んでしまえる穴が出てきます。ある日地面に穴が開いていて、段々街の人たちが何でもそこに放り込んで捨てていく話で、人間が「消し去ってしまいたい」って思っている願望を覗けるお話です。最後そのシーンでは、一番最初に放り込んだゴミが空から降ってくるという結末です。この話を子供の頃に読んだのが記憶に残っていて。捨てるっていう人間の行為そのものに興味をもったんです。展覧会で、この捨てるという行為をもう一度考えるきっかけを作りたいと思いました。
矢津さん 副産物産店では、京都だけでなく全国から、アーティストが作品を作る過程で出てくる廃材やもう使わなくなってしまった道具を集め、それを利活用しています。捨てられたものが、また素材として活用されたり、新しい作品にアップサイクルされたりしています。
杉田 参加者からの反応はどうでしょうか?
矢津さん 地域の方々を含め、初日からいろんな方が来てくれていています。道路沿いにあることもあり、地域の方々はこの場所が10何年以上も使われていないことを知っていて、最近何か始まっているということには気づいていたようで。こういうきっかけがあることで地域の方にも来ていただいて、お話しする良い機会となりました。
杉田 実際に会って話をすると、謎の集団じゃなくなるし、地域住民の方も安心してくれますよね。
矢津さん アート制作の現場から出る廃材ということに興味を持ってくれる方が多かったです。展示に来てくれる人の滞在時間も長いですね。焚き火もあって、長居したいような雰囲気があると思います。
普通、ギャラリーって居心地悪いじゃないすか。僕、それが好きじゃなくて。できれば長いあいだ作品を前にしながら色んなお話ができる場所がいいなと思っているので、そういう点で今回の展覧会はとても良い機会になりましたね。
焚き火を囲んでたくさんの人がコミュニケーションを交わしていました。
意識しすぎずに、あくまでも楽しく
杉田 サーキュラーというテーマに対して、アーティストとして、北山ホールセンターとして、役割はどこにあると思いますか?
矢津さん 言葉があるとそれに回収されてしまうことって結構ありますよね。難しいなと思うことが多いです。実践している側としては、別に資源循環を第一義として掲げてやっている訳ではない。
副産物産店では「アーティストが物を作ることって一体何なのか?」という問いに対して活動しているので、環境のためになるからやってるかと言われると、違うんですよね。活動していたら、結果的にそのテーマに繋がっていた、という方が近いかなあ。入り口として、ちゃんとアートである、っていうことがまずは大切なのではないかなと。デザインや建築の分野でも同じです。
杉田 あくまでも資源循環とか環境のためドリブンではなく、自分たちの表現のために活動していたら、それが結果的に資源循環にも繋がっていた…ということですね。
矢津さん そうですね。資源循環やサステナビリティってどうしても重いテーマだし、いわゆる正義のテーマじゃないですか。でも、自分達がやりたいことが資源循環につながっていた。やりたいことをやっていたら楽しいし、楽しければ人も集まってくる。北山センターでやりたいのはそういうことです。
杉田 次に仕掛けてることや、やってみたいこととかありますか?
矢津さん 今、北山ホールセンターにはトイレがないということもあり、せっかくなので循環型のトイレを、みんなで考えながら作りたいですね。あとは北山杉は余剰資源として見過ごされているので、北山ホールセンターとしての活用の仕方を考えたいです。今回の展示でも、北山杉の丸太を作ったスツールやテーブルなどが展示されています。
矢津さん ここを起点に、これから北山をどんどん盛り上げていきたいですね。色んな人が関わってくれる、関わりしろを作っていけるような活動になっていきたい。北山ホールセンターを起点に、また別の京都の姿も見ていただけたらなと思いました。
杉田 北山ホールセンターの今後がますます楽しみになりました!本日はありがとうございました!
おわりに
SDGsやサステナビリティについて多方で叫ばれている今、このテーマが持つ重要性や責任感を負担と感じてしまう人も、正直少なくないはずです。
北山ホールセンターを今回訪問して感じたのは、心地の良い場を作ることや、誰かに響くアート作品を作ることと、資源循環が無理なく併走しているということ。肩肘をはってサステナビリティを叫ぶのではなく、あくまでも自分たちの活動を無理なく楽しく行うなかで、みんなで一緒にこのテーマに寄り添う。アーティストやクリエイターが主体となった資源循環の取り組みの可能性を感じた取材となりました。
今後も、北山ホールセンターでのイベント等が開催される予定です。ぜひチェックしてみてください。
美術家 / kumagusuku代表
1980年大阪生まれ。京都市立芸術大学美術科彫刻専攻卒業。京都芸術大学美術工芸学科専任講師。京都市立芸術大学芸術資源研究センター客員研究員。京都を拠点に美術家として活動。作家活動と並行してオルタナティブアートスペース「kumagusuku」のプロジェクトを開始し、瀬戸内国際芸術祭2013醤の郷+坂手港プロジェクトに参加。2017年からは山田毅とアートの廃材を利活用するアートプロジェクト「副産物産店」を開始。主な展覧会に「青森EARTH 2016 根と路」青森県立美術館(2016)、「やんばるアートフェスティバル」沖縄(2019)など。 矢津 吉隆の記事一覧へ >
資材循環とものの価値を考えるプロジェクト
美術作家・アーティストによって日々営まれる創作活動。そして創作活動から生まれる様々な「副産物」。副産物産店とは、そんな京都のアーティストのアトリエから出る魅力的な廃材を”副産物”と呼び、回収、販売するプロジェクトです。山田毅(只本屋)と矢津吉隆(kumagusuku)が考案した資材循環のための仕組みであり、ものの価値、可能性について考えます。2022年より足立夏子(mosynē)が参加し、3人で活動を行なっています。 副産物産店の記事一覧へ >
編集者 / キュレーター