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資源が“くるり”プロジェクトさん
京都音楽博覧会 × サーキュラーエコノミー
インタビュー・文:杉田 真理子
撮影:佐々木 明日華
Stories2022.12.01
Vol. 06
きっかけさえあれば、サステナブルな未来はより近くなる。京都音博を起点に発信する、資源が“くるり”プロジェクト
2022.12.01
インタビュー・文:杉田 真理子
撮影:佐々木 明日華
2022年10月9日に開催された、今年で16回目となる音楽イベント「京都音楽博覧会」(以下・京都音博)。雨天に関わらず多くの来場者が集まり、主催者であるくるりを中心に、Vaundy、槇原敬之などによる大迫力のパフォーマンスが行われました。

今年の京都音博の見どころは、音楽だけではありません。新しい取り組みとして、サーキュラーエコノミーに関わる「資源が“くるり”プロジェクト」がスタートしました。「資源が“くるり”プロジェクト」は、「梅小路公園に “コンポスト” を設置して、フードエリアで出る食材の使い残しや食べ残しを堆肥に変える」、そして「本来まだ美味しく食べられる京都の廃棄食材を活用し、アイスクリームを製造・販売する」というもの。梅小路京都西駅エリアにおけるクリエイティブタウン化を推進する株式会社梅小路まちづくりラボが起点となり、京都市都市緑化協会をはじめとするさまざまな地域団体やクリエイターと連携しながら進めているプロジェクトです。

「持続可能な音楽イベント」として、今年の京都音博はどのようなメッセージを広げたのでしょうか?取材陣による、当日の様子をレポートします。
目次

資源が“くるり”って、どういうこと??

「資源が“くるり”プロジェクト」を共同で仕掛けるメンバーである、京都音博主催のロックバンド・くるりの岸田繁さんと、今年京都音博にアドバイザーとして参加するサーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さん。
(※今回のプロジェクトに関するお二人の対談記事は こちら から)

会場である梅小路公園に着くとまず目に入ったのが、安居昭博さんを筆頭とした資源が“くるり”プロジェクトのブースでした。

飲食ブースが軒を連ねるなかで、一際目立つ「資源が“くるり”プロジェクト」ブースには何やら展示やポスターが。安居さんが、来場者に丁寧にプロジェクトの内容を説明しています。

「くるりの岸田さんの、“これまでにはない、本質的な環境への取り組みをしたい”という想いを受けて、京都におけるサーキュラーエコノミーの実践をはじめています」と安居さんは説明します。

そもそも、この「資源が“くるり”プロジェクト」の起点になっているのが、梅小路エリアのまちづくりを推進している株式会社梅小路まちづくりラボ。梅小路京都西駅エリアにおいて、モノづくり・アート・食を軸としたクリエイティブタウン化を目指し、2020年に14の事業者が集まってできたまちづくり会社です。

同社の取締役である足立毅さんの働きかけで岸田さんと安居さんが繋がり、京都音博のフードエリアで出る食材の使い残しや食べ残しを使って完熟堆肥をつくり、それを公園樹木の肥料として還元するという今回のプロジェクトが生まれました。

この他にも足立さんや安居さんが中心となり提案したいくつかの取り組みが結実し、実際に形になったのがこの10月9日というわけなのです。

写真左から、足立毅さん/安居昭博さん/鴨志田純さん

このコンポストプロジェクトを実現するために、コンポストアドバイザーとして参画したのが鴨志田純さん。鴨志田さんは、黒川温泉のコンポスト事業などでも安居さんと一緒に取り組まれており、「どこの地域でも心強いパートナーです」と安居さん。

鴨志田さんが、コンポストの流れが分かりやすく説明された展示スペースで、梅小路公園を中心とした公共コンポストについて説明してくれました。

©株式会社梅小路まちづくりラボ

「この取り組みの特徴は、梅小路公園から20km圏内で出る籾殻などの資源を使って食品残さを処理していること」と鴨志田さん。「今回のコンポストでは、大原の籾殻、梅小路公園の落ち葉、伏見の瓦屋さんの瓦土と米ぬかを混ぜて予備発酵させた床材をまず作りました。資源を処分するにもお金がかかりますが、きちんとペアリングすることで、適切に活用できるんです」と、資源をポテンシャルマップでリストアップすることの大切さを説明してくれました。

「この床材1Lあたり、1kgの食品残さが処理できます。緊急時はこのコンポストがトイレにもなるんですよ。」

ブースには、立命館大学・衣笠キャンパスの大学食堂で出た廃棄食材で堆肥づくりをする学生さんの姿もあります。

「堆肥とは、主に有機物を微生物の働きによって、高温で、発酵、分解、熟成させた肥料のこと。高温で、というのが大切で、60度以上で1ヶ月以上かけて、病原菌を死滅させます。 CNBM分類 という農水省から農業技術の匠に認定された堆肥化技術を用い、成分を炭素、窒素、微生物、ミネラルという4つに分類して、微生物の力を借りて発酵させます。」

未熟、中熟、完熟と3つのプロセスを観察できる比較栽培実験もあり、実際に匂いを嗅がせてもらいました。水と共に瓶に1週間入れて、大雨が降った時の土壌の状態を再現。完熟度を匂いでチェックします。

この時に腐敗臭がすると、まだ未熟という証拠。完熟堆肥は、無臭、もしくは土の良い香りがします。

 

イベントに疲れたら、廃棄食材を活用したアイスクリームを

本ブースでは、サーキュラーエコノミーの考え方によって開発されたアイスクリームが食べられました。

レシピ開発に関わったのは、京都・寺町通りで人気のビーガンカフェ mumokuteki cafe&foods 等で監修に携わり、持続可能な食の未来を研究する堀口貴行さんや、新感覚の“食”のカルチャーを発信する東山のレストラン LURRA°(ルーラ)を経営する宮下拓己さん。

京都・伏見の老舗酒蔵 山本本家さんからは酒粕を、そして、アサヒ製餡さんからはこし餡を作るときに出てしまい普段は廃棄されてしまう小豆の皮を活用したアイスクリームです。濃厚で、美味しい!

京都音博の全ての飲食ブースでは、再利用可能な容器が使用されていました。購入の際に容器用のデポジットを支払い、飲食後に回収専用の“エコステーション”に返却することでデポジットが戻ってくる仕組みです。

使い捨て容器によるゴミが多く出てしまいがちなフェスティバルですが、京都音博はこのような取り組みを長年続けているのだそう。オペレーションの手軽さよりも、環境へのインパクトを考えた素晴らしい取り組みです。

 

今回のためにデザインされたコンポスト

気になるコンポストステーションはなんと、飲食ブースとステージの間にひっそりと佇む駐車場内にありました。

通常小さい建物を建てる際でも申請が必要であり、工期・コスト・申請期間などのプロセスを踏むと実現がかなり難しい状態だったそう。

そこで、プロジェクトチームの 北山ホールセンター で、主に設計を担当した 木村松本建築設計事務所 の木村吉成さんと松本尚子さんは、“小規模倉庫”として基準をクリアした横長のコンポストステーションをつくりました。

高さは1.4mに抑え、奥行きは1mのみ。駐車場の奥に建つということから駐車スペース幅2.5mをグリッドに採用した、15mの長さというコンパクトなコンポストステーションです。丸みがあるドアを上に引き上げるデザインは車のガルウィングを参照したのだそうです。

籾殻・米ぬか・落ち葉・壁土を混ぜて予備発酵させた床材は、京都音博に向けて事前に仕込んだもの。きなこのようなほんのり香ばしい匂いがし、手で触れると暖かく、発酵熱を感じます。今回の音博で出た食材の使い残しや食べ残し1に対して、この床材10を混ぜ、10月20日まで置いておき、そこから2次処理をして堆肥化を進めていきます。

「主要な構造体である北山杉の絞り丸太は、乾燥庫に眠っていたものを分けてもらいました。煉瓦は愛知・常滑市の水野製陶園で作られたもの、また屋根の内張りに使っているファブリックはメーカーのfabricscapeの試作品です。あくまでも仮設として作られたコンポストステーションなので、解体もすぐできるようになっています」と木村さん。

また、松本さんは、今回のコンポストステーションが“簡単な技術でできている”ことも大切だと説明します。「目新しいものというよりも、誰もが街の他の場所で展開していくための、きっかけづくりとなれば良いなと思っています。」

写真下:「資源が“くるり”プロジェクト」メンバーの皆さん

このコンポストステーションは今後も引き続き株式会社梅小路まちづくりラボが中心となり、京都市緑化協会と連携して運営していくとのこと。まずは定期的なワークショップを通して、地域の方々と一緒に完熟堆肥づくりを進めていく予定です。

今回の京都音博や「資源が“くるり”プロジェクト」をきっかけにコミュニティが生まれ、さらに地域とも一体となってこの梅小路エリアがますます活気づいていく。岸田さんとの 対談時 に安居さんが語った『このプロジェクトの肝はまさに、「京都音博だけで終わらない」ことなんです』という言葉を、まさに感じることができました。

 

「資源が“くるり”」というメッセージ

その後、ステージには安居さんの姿が!

くるりの岸田さんに紹介され、今回の音博とサーキュラーエコノミーの取り組みについて、多くの観客に向けてメッセージが届けられました。

多くの人々が関わった資源が“くるり”プロジェクト。

くるりの岸田繁さん、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さん、株式会社梅小路まちづくりラボの足立毅さんを筆頭に、京都・北山三村を舞台に地域資産を活用したさまざまな活動を行う北山舎や、アート・建築・デザインの領域を横断して活動する北山ホールセンター、梅小路まちづくりラボ、mumokuteki cafe&foodsチーム、LURRA°の宮下拓己さん、コンポストアドバイザーの鴨志田純さんなど、さまざまな専門分野のメンバーが、「循環」というテーマのもとに一致団結して取り組みました。

そして、このような取り組みが、“音楽”という誰でも楽しめる媒体と共に発信されていく様子は、とてもワクワクするもの。この1日で発信されたメッセージは、今後多くの人に伝播していくでしょう。楽しいだけではなく、学びの多い京都音博でした!

写真上下:今回の京都音博の様子(撮影:井上 嘉和)

Profile
資源が“くるり”プロジェクト
京都音楽博覧会 × サーキュラーエコノミー

京都音博が環境のための取り組みとして新たにはじめたプロジェクト。その取り組みのひとつとして「食品由来の廃棄物から堆肥を作るための “コンポスト” 」を梅小路公園に設置。フードエリアで出る食材や食べ残しを堆肥に変え、公園内の樹木や花壇の肥料にする取り組みです。
「京都音博」を契機に、今後の環境について考える観光コンテンツにもなる「コンポスト・ステーション」への発展を目指しています。
  • Website
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Writer
杉田 真理子
編集者 / キュレーター
都市・建築・まちづくり分野における執筆や編集、リサーチほか、文化芸術分野でのキュレーションや新規プログラムのプロデュース、ディレクション、ファシリテーションなど、幅広く表現活動を行う。都市に関する世界の事例をキュレーション ・アーカイブするバイリンガルWebメディア「Traveling Circus of Urbanism」、アーバニスト・イン・レジデンス「Bridge To」を運営。一般社団法人「for Cities」共同代表・理事。2021年12月〜2022年8、アフリカの各都市でスマートシティ開発に関わるリサーチ・企画を行う。
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