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京ぐらしネットワークさん
京町家・中古住宅リノベーションの総合プロデュース
インタビュー・文:小倉 ちあき
撮影:原 祥子
Stories2023.01.31
Vol. 07
さむくてあつい京町家は、もう過去の話!「断熱リノベーション」がつくる、快適で豊かな暮らし
2023.01.31
インタビュー・文:小倉 ちあき
撮影:原 祥子
神社仏閣が身近にある、風情のある京町家での暮らし...。和の風情を感じられる「京ぐらし」に、憧れを抱く方も多いでしょう。しかし実際の京ぐらしには、夏の蒸し暑さと冬の底冷えがつきもの。

大好きな京都で快適に暮らしたい!その願いを解決するひとつの方法として、近年注目されているのが「断熱リノベーション」です。

一体どのくらい快適になるのでしょうか?そこで実際に体感すべく、築100年以上の京町家を断熱リノベーションしたモデルルーム「京都 醍醐の家」にお邪魔しました。吐く息が白くなるような寒空のなか、その断熱効果や如何に!?

■インタビュイー:
水嶋 弘明 氏 「京ぐらしネットワーク」事務局/平安建材株式会社
亀井 裕雄 氏 京都市 環境政策局 地球温暖化対策室
堀 有輝子 氏 京都市 都市計画局 住宅室 住宅政策課
目次

「え、ここはもう春ですか?」

外気温は7℃。訪れたのは、京都市伏見区にある世界遺産・醍醐寺が向かいにある、木造2階建ての京町家「京都 醍醐の家」。京都の風情を感じながら、早速家の中に入ります。「失礼します」と玄関のドアを開けた瞬間から、じんわり包まれるような暖かさ。「わあ、外とぜんぜん違う」と訪れたスタッフ一同、顔を見合わせてしまいました。

2階部分まで一部吹き抜けになっているリビングダイニングは、開放感たっぷり。上下左右へと空間が広がっている分、温度調節が難しいはずですが、1階から2階へとぐるぐると歩きまわってもこの家はどこも温度が一定。室内温度は19.5℃を示していて、床暖房なしでも、靴下のまま歩き回っても寒さを感じませんでした。

取材時の外の温度は8.8℃。室内とは10℃以上の差がありました。

リノベーションを行った「京ぐらしネットワーク」事務局の水嶋弘明さんに伺ってみると、「この家は北海道レベルの断熱性能なんです」とのこと。1階にある暖房1台だけでこれだけ暖かい空間になっていると思うと、本当に驚きです(※1)。

「断熱は、暮らしを豊かにしてくれますよ」と微笑む水嶋さん。がぜん断熱に興味が湧いてきます。ほっこり暖かい「京都 醍醐の家」のリビングで、断熱リノベーションの魅力について、京都市 環境政策局の亀井裕雄さん、都市計画局 住宅室 住宅政策課の堀 有輝子さんを交えて、詳しくお話を伺いました。

(※1)2階にある個室2部屋にはそれぞれ冷暖房が1台ずつ設置あり

 

断熱リノベーションを施した築110年の京町家

小倉 ちあき(以下、小倉) 「京都 醍醐の家」にお邪魔して、断熱性能を初めて体感しましたが、その暖かさに驚いています。

水嶋 弘明さん(以下、水嶋さん) そう言っていただけて嬉しいです。いろいろ語るよりも、実際に肌で感じていただくことが一番大切かなと感じています。「京都 醍醐の家」はモデルハウスとして開放していますが、施工後の3年間でトータル約350名以上の方が全国よりお越しくださいました。

亀井 裕雄さん(以下、亀井さん) 私は十数年前に新築を建てて、今まさに家の寒さに悩まされているところです(笑)。

水嶋さん そういう方に、まさに体感していただけてよかったです。

小倉 「京都 醍醐の家」はどのような背景で、生まれたのでしょうか?

水嶋さん 私たち「京ぐらしネットワーク」は、京都を中心としたエリアの不動産、設計士、メーカーなどが協力しながら、京町家を現代に見合ったリノベーションを行っています。

堀 有輝子さん(以下、堀さん) 古き良き京町家の暮らしを、なるべく未来に残していこうとされている活動ですね。寒くて暑いといわれる京町家が暮らしやすくなれば、もっと京町家に住みたい人も増えそうです。

水嶋さん そうなれば嬉しいです。新築住宅では、太陽光パネルや脱炭素住宅など、生活に必要な消費エネルギーを従来の住宅よりも抑えられる「省エネ住宅」も増えつつあります。

ただ、既存住宅や木造住宅に関してはまだまだ発展途上…。私たちは、その認知度を広げていきたい。そのための活動の一環として、築110年の京町家を改修し、北海道レベルの断熱性能に高めた「京都 醍醐の家」が誕生したのです。

小倉 北海道レベルとは、すごいですよね!

水嶋さん 内張り断熱、吹込み断熱や断熱ドアなど、さまざまな断熱技術をフルに駆使しています。専門的な話でいうと、外皮平均熱貫流率UA値が0.46(W /m2・K)で、北海道の省エネ住宅とおおむね同レベルだという意味合いです。

 

まずは、窓、床から。部分的なリノベーションでも効果あり

亀井さん 全部盛りみたいですね!お聞きしたいのですが、私のようなケースで、今住んでいる家に断熱リノベーションをしたい場合は、どこから始めればいいのでしょうか。

水嶋さん 「窓」をおすすめします。例えば、リビングの窓を「樹脂窓」に変えたり、「内窓」を付けたりするだけでも、体感温度はだいぶ変わりますよ。「京都 醍醐の家」は、全て樹脂窓となっています。ちょっと窓際に近づいてみてください。

亀井さん (窓に近づいていって)冬の窓際ならではの冷えが全然ありませんね。

水嶋さん 窓の性能が悪いと窓際では“コールドドラフト現象”が起こり、窓で冷やされた空気が床面に流れ込み、足元を冷やしてしまうのです。

窓枠はアルミサッシが一般的です。外気温が低いと、どうしてもアルミに冷気が伝わってしまって、その影響で、窓の近くは特に温度が低下してしまうんです。また、ガラスもLow-Eの複層ガラスとなっていて、ガラス面に薄い金属膜を施してあり、ガラスにも断熱効果があります。窓枠が樹脂、ガラスがLow-Eガラスの窓なら冷気が伝わりにくいため、部屋全体をしっかり保温してくれるのです。

亀井さん なるほど、たしかにそうですね!

水嶋さん 窓を二重にする「内窓」もおすすめです。内窓には、部屋の保温だけではなく、遮音性も高まります。ちょっと窓も開けてみていただけますか。

亀井さん (窓を開けると、バスの音が聞こえる)あ、そういえば、家の前って結構交通量の多い道路でしたね。

水嶋さん 隣同士が近かったり、道路に面していたりすると騒音が問題になることもあります。音って意外とストレスを感じませんか?断熱が効いた家はとっても静かなんです。内窓も有効で、そのあたりの問題も解決しやすくなるはずです。また結露も発生しにくくなるので、快適性が増すなどのメリットもあります。

堀さん 私も京都住まいですが、冬は底冷えするのも結構辛いですよね…。

水嶋さん もう一つのおすすめ箇所は、「床」です。京町家の畳をめくった板の下に断熱材ボードを入れるだけでも、冷気が上がってこなくなります。ストーブをつけるだけでは寒くて座っていられない、ということもなくなりますよ!

ちなみにこの家には、90mmの断熱材を入れています。そのために今のように、床暖房なしでも暖かいのです。

 

できるところからスタート。活用できる補助制度や見学会もある

小倉 断熱リノベーションの魅力がとても伝わってきます。ただ、リフォームの中でも断熱は優先されにくいという話を耳にします。

水嶋さん そこなんですよね。その理由は、快適さがまだまだ知られていないからだと私は思っています。例えばキッチンなどは高額であっても、いろいろな機能がついているからだと理解されやすいですが、断熱リノベーションは壁の内側や床の下などに施されるので、工事が終わったら見えないので理解されづらいところがあります。

もうひとつは、予算の問題。断熱は安い工事ではないので、費用をかけた分の効果が認知されていないと、見積書を見て削除されやすい項目になっているのかなと。快適さを体感していなければ、お金を出そうとはなかなか思えないですよね。一般的に“費用対効果”といわれるものでしょうか。費用は数字で見えても、快適さが実際に肌でわからないと…。なので、この「醍醐の家」で体感していただきたいのです。

小倉 ちなみに、先程お伺いしたような、内窓の部分的なリノベーションを行った場合はどのくらいの予算を想定しておけばいいでしょうか?

水嶋さん 窓の大きさや断熱性能にもよりますので、概算ですが、50〜100万程度でしょうか。そのあたりをベースに、まず工務店やリフォーム会社に相談してみることをおすすめします。ネットで概算を出せる業者もありますよ。水回り、壁や床の改修を行う際に、外の工事と合わせて検討してみるのが効率的でしょう。

堀さん 工事費の負担軽減、という話でいうと、国の「住宅省エネ2023キャンペーン」(※2)など省エネ住宅の新築やリフォームに関する補助制度がそろっています。補助を活用しながら行えれば、費用面のハードルも下げられますよ。

水嶋さん 補助制度をうまく活用することは賢いやり方ですね。高断熱窓や高効率給湯器の設置など、部分的なリノベーションでも補助制度が適応する場合もあるようです。

堀さん 他にも、実際にさまざまな省エネ住宅を体験する機会として、「京都省エネ住宅めぐり」という見学会も寒い冬と暑い夏に実施しています(※3)。実際に住まれて使われている家ばかりなので、住まれている方に経験談を聞くことができるのも貴重です。

水嶋さん 多くの方が、断熱について学んだり、知ったりできる機会が今よりももっと増えればいいなと思います。

(※2)「住宅省エネ2023キャンペーン」は、経済産業省、国土交通省及び環境省の連携により、住宅の断熱性の向上や高効率給湯器の導入等の住宅省エネ化を支援する新たに創設された3つの補助事業の総称。詳細は下記より御覧ください。
https://jutaku-shoene2023.mlit.go.jp/

(※3)「第5回 京都省エネ住宅めぐり」は、2023年1月28日〜2月26日の土日に実施。参加費無料。詳細・お申し込みは下記より。
https://miyakoanshinsumai.com/eco-2022-winter/

 

もっとわがままでいい!快適を求めて豊かに暮らそう

小倉 冬の家は寒いものだから仕方ないと、今日まで思い込んでいました(笑)。でも違うんですね。家って、手を加えるほど快適になるもので、もっと快適を求めていいんだ!と。

水嶋さん もっと自分たちの暮らしにわがままになってほしいなと思います!断熱を施すと住まいのクオリティは確実に上がります。きっと今後、住宅を選ぶ目線も変わりますよ。また、WHO(世界保健機関)が健康の観点から家の中全体の室温は18℃以上にすることを強く勧告しています。

人間が快適だと感じる要素は、温度、湿度、音、明るさなどたくさんありますが、全てが相まってこそ、快適だと感じられると思うのです。どれか一つ欠けても、実現しません。「京都 醍醐の家」ではそれが再現できていると思います。

亀井さん なるほどです。家というのは、くつろぎの空間。食事をして、団らんして、寝て、次の日また元気に生きるための力を温存する大切な場所ですよね。一番快適に過ごせる場所が家である、ということをもっとシンプルに、もっとわがままに求めていいのかもしれませんね。

小倉 最近、CO2や温室効果ガスの削減が注目されています。改めて、京町家で豊かな「京ぐらし」を実現するために、住まいにおいて大切なことは何だと思いますか?

水嶋さん 熱が逃げていく住宅は、暖めるためにエネルギーが必要なので、たくさんCO2を排出しているのと同様です。歩いて通勤することや電気自動車に変えるなどは、もちろん有効な手段です。外では意識を持って活動していても、家に帰ると冷暖房をガンガン付けているという状態が生まれています。

となるとシンプルに、エネルギーに頼らないような快適な家に変えていくことそのものが、一つの解決策になるのではないでしょうか?暮らしが快適になる上に、それがひいては、地球環境にも寄与できる。既存住宅を省エネ改修することは、最大のCO2削減対策だといえると思います。

堀さん スクラップアンドビルドで、新しいものを建てるよりも、風情のある建物をなるべく活用しながら、省エネ改修することは京都らしい景観を守る意味でも大切ですよね。家の解体による部材の廃棄や燃焼を最小限にすることも、CO2削減に繋がります。

亀井さん 地域経済を潤すという点でも意味があります。断熱リノベーションのような省エネ住宅は、最初はお金が掛かるけれど、地域の工務店や業者の方に資金が回ることで地域の活性化にも効果があると思います。

水嶋さん とにかく断熱リノベーションはいいことばかり、ということでしょうか(笑)。一度、「京都 醍醐の家」にお越しください。案ずるより産むが易し。どのくらい自宅が快適になりそうか、現地で想像してみてください。お待ちしています!

小倉 断熱リノベーションがとても身近になりました。本日はありがとうございました!

取材協力:京都 醍醐の家

Information
京都省エネ住宅めぐり

省エネ住宅に関する知識を広め、快適で健康的なすまいづくりを目指すため、省エネ住宅の良さを実際に体感していただける「京都省エネ住宅めぐり」を市内業者と協力して開催します。京都の寒い冬でも快適なすまいを体感できる貴重な機会ですので、ぜひご参加ください!

開催期間:開催中〜2月26日(日)まで ※土日のみ
申込期間:受付中〜開催日の7日前まで
開催場所:各会場(8会場)
主催:京都市
企画・運営:京(みやこ)安心すまいセンター
  • Website
Profile
京ぐらしネットワーク
京町家・中古住宅リノベーションの総合プロデュース

リノベーションを通じて、京町家で永く快適に暮らしていただきたい。そんな想いに賛同した地元の工務店、メーカー、設計事務所、宅建事業者など約40社が一丸となった組織です。それぞれが持っている知識や技術を出し合った中古住宅の改修によって、京都の風情ある街並みを守りながら快適で豊かな暮らしを提案しています。
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Writer
小倉 ちあき
ライター
地域・アート・暮らしの領域で主に活動。インタビュー・作品執筆・編集など。企画・取材に合わせて、各地を移動する。情報と知識の境界線を越えて、有機的につなぎあわせる編集術を日々模索する。
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