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ウスビ・サコさん
京都精華大学 前学長 / 全学研究機構長 / 人間環境デザインプログラム教授
インタビュー・文:ヒラヤマ ヤスコ
撮影:佐々木 明日華
Stories2024.06.03
Vol. 16
サコさんぽ -第2歩-『ビル建設だけが発展じゃない、住民が守ってきた姉小路界隈の景観』
2024.06.03
インタビュー・文:ヒラヤマ ヤスコ
撮影:佐々木 明日華
時には華やかに、時には煌びやかに、街として発展を遂げていくこと。街に昔ながら住む人たちの暮らしを守ること。「変わること / 変わらないこと」の相反するふたつは、多かれ少なかれ、どこの街にも横たわる課題かもしれません。京都の街も、そうした課題のなか都市開発がなされてきました。
とくに碁盤の目の中心地の変遷はすさまじいもの。四条通から御池通にかけての繁華街エリアは、京町家が立ち並ぶかつての姿はずいぶんと割合を減らし、高層マンションや大きなオフィスビル、ファッションビルなどが立ち並んでいます。

そんななか、繁華街と繁華街のすきまにのびるのが姉小路通。開発いちじるしい市内中心地にあって、昔ながらの町家や職住一体型の木造家屋が立ち並んでいます。

「姉小路通は中心地の立地にあって、街が大きく変わりすぎないよう、価値創造の手綱を住人たちが握っているんです。京都らしい景観の維持と、持続可能な都市開発の方法はどんなものがあるのか、散歩しながらいっしょに考えてみましょう」とサコさん。

そういえば、姉小路通ってあんまり意識して歩いたことがないかも……。どんな目線で街を見ることができるのか、御池通の喧騒から南下し、界隈を歩いてみました。
目次

『サコさんぽ』とは

30年以上を京都で過ごし、京都精華大学で学長もつとめたウスビ・サコさん。空間人類学者として長らく京都の街を研究してきました。そんなサコさんと街歩きをしながら、京都の街で起きている「変化」や、地域に息づく暮らしの知恵や工夫と出合う連載企画。

その土地で紡がれてきた歴史や文化、そしてゲストとの会話から、2050年の私たちが自分らしく健やかに暮らしていくためのヒントを一緒に見つけていきましょう。

<案内人> ウスビ・サコ (写真左)
マリ共和国生まれ。 北京語言大学、南京東南大学を経て来日、1999年、京都大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程修了。京町家の打ち水の大きさを計測し「打ち水が隣の家の打ち水と被る範囲が多い家どうしは関係が良好」など、空間人類学を専門に、社会・建築・コミュニティのさまざまな関係性を調査研究している。2018年4月から2022年3月まで、京都精華大学学長を務めた。『知のリテラシー文化』(ナカニシヤ出版)、『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』(世界思想社)など著書多数。

<いっしょに歩いた人> ヒラヤマヤスコ (写真右)
京都と神奈川県・逗子の二拠点生活をおくるライター・編集者。京都精華大学の芸術学部に在籍していた頃からサコさんのことはよく知っていた。ローカルにおけるカルチャーやそこで活動する人の取り組みに興味があり、Webメディアや雑誌で執筆・編集をおこなっている。毎週末に鎌倉の酒場に立つほか料理人としても活動しており、各地の食文化を学ぶこともライフワークのひとつ。

繁華街とオフィス街のあいだに残る、姉小路通の昔ながらの街並み

−−さ、さささ……寒いですね。こないだまでめっちゃ暖冬だったのに……(取材は2024年1月23日、雪がちらつくような日でした)

ウスビ・サコさん(以下、サコさん) 京都らしい冷え込む冬がきましたね〜。

−−なんで京都には折々の四季があるのに前回も今回も冬なんだ……!みなさん、服装が前回と一緒ですが1年経ってますからね〜〜!!

サコさん 誰にむかって言ってんの(笑)?

−−さてさて、今回は姉小路通の周辺とのことですが。

サコさん そうですね。三条通と御池通のあいだに走る東西の通りです。と、その前に。三条通と御池通ってどんなイメージがありますか?

−−三条通はやっぱり、寺町・新京極や河原町と並ぶ繁華街ですよね〜。若い世代に人気の飲食店やアパレルショップなんかがあって。新しい建物やお店がどんどん入っている印象です。あ、郵便局や京都文化博物館とか、レトロな近代建築も多いですね。今昔を通して流行が集まる通りって感じでしょうか。

サコさん うんうん。

−−御池通はなんといっても高層ビル・高層マンションの密集地帯ですよね。高さ制限があるとはいえ、東京における丸の内エリアというか。

サコさん では、そのあいだにある姉小路通はどうでしょう?

−−うーん……。南北の通りがめちゃくちゃ繁華街として発展してるのに、ここは古くからの木造建築がいまでも多く残っている印象ですかね。お店も落ち着いた感じのところが多いですね。

サコさん そうでしょ。これはたまたまそうなったわけではなく、姉小路通の人々が自分たちで街づくりのあり方について協議し、独自で景観の基準を守ってきたからなんです。

−−行政じゃなく、街の住人が自分たちで開発の基準を……?

サコさん そう、ずっと取り組んできているんです。京都らしい景観って、町家や低層の木造建築が立ち並ぶのを想像する人も多いじゃないですか。姉小路通はまさに「京都らしい光景」が残っているというか。繁華街としての開発が進む市内中心地では貴重な光景ですね。

−−三条と御池のあいだで、なんでこんなに雰囲気が違うのか不思議だったんですが「あえて開発しない」をしてきたってことですか。

サコさん もちろん外からの影響をどんどん取り入れて繁華街としての景観を強めていく発展の方法もあります。でも、そうではなく「変わらない・変わりすぎないように地元の人が昔ながらの景観を守っていく」発展の仕方も街にとって必要なことがあると思うんですよね。

 

住民たちが立ち上げた、独自の基準で景観を守る「姉小路界隈を考える会」

−−そもそものきっかけは何だったんですか?

サコさん 1980年代から1990年代にかけて、この市内中心地では大規模な再開発がたくさんありました。姉小路通でも、1995年に高層マンションの建設計画が持ち上がって、街に住まう人々のあいだで反対運動が起きたんです。結果、マンション建設はなくなりました。さらにその運動のなかで生まれたのが「姉小路界隈を考える会」という市民団体です。

−−開発の反対運動はよく聞きますが、マンション建設を跳ねのけたうえに団体もつくったんですか!

サコさん おそらく当時で全国初の試みなんじゃないかな。京都市街地の中心地はとくに、当時はものすごい速さでビルやマンションが建っていったんです。それは街が華やかになるってことなんですけど、同時に街が住民の手から開発業者の手に移っていくということ。

−−うーん、めっちゃ難しい問題ですね。開発されることで便利になったり人が増えたり、メリットもあるんですけど。

サコさん 「姉小路界隈を考える会」は、街のあり方を他者に委ねず、自分たちで開発の基準を設けようと建築協定を立ち上げられたんです。

−−建築協定って、具体的にはどういうものがあるんでしょう?

サコさん ひとつは建築物の用途に関する制限ですね。キャバレーやナイトクラブ、ダンスホールのような遊興のお店や風俗店、パチンコ屋や麻雀店。あとはカラオケボックスのように外に音が漏れるリスクのあるお店とか。

−−良し悪しを問う話ではなく、ひとつそういうお店ができると、似たジャンルのお店が出店しやすくなりますしねえ。余談ですけど、いま中高生もよく歩いてる裏寺のエリアだって、20年くらい前までは成人映画館が現役だったりして、ずいぶん雰囲気が違ったみたいですし。

サコさん あとはコンビニやドラッグストアみたいに、22時以降も日用品を販売する店舗。ことの発端となったマンション……いわゆる共同住宅に関しては、広さが45平米以下で、所有者が住んでいない物件は建てられないという基準があります。

−−なるほど。この土地にいない人が「ここにワンルームマンション建ててオーナー業やったろ……」ってことができないわけだ。

サコさん そもそも高さ制限も、御池通や三条通と比べて厳しいですしね。高さは地盤から18m以下、階数は5階以下でないといけないので。

−−すごく綿密に基準がつくられてるんですね。

 

建設や改築には住民の承諾が必要だから、トーンマナーの揃った景観が生まれる

−−ところで「姉小路界隈を考える会」の「界隈」ってどういうことですか?

サコさん 「姉小路界隈を考える会」は、姉小路通の人だけで構成されているわけじゃないんですよね。麸屋町通、柳馬場通、堺町通など、姉小路通に接続する南北の通りの人たちも関わっているんです。だから「界隈」という広いくくりで活動されている。

−−そっか。南北の通りを見ると、三条通や御池通に近いところは高層建築が目立ちますが、姉小路通と角を共有するあたりは街並みの雰囲気が揃ってますね。

サコさん さっき紹介した建築協定に加えて、姉小路界隈には「姉小路界隈街づくりビジョン」という心構えも策定されています。これは間之町通とぶつかるところに看板が設置されていますね。

−−ふむふむ、「静かで落ち着いた住環境を守り育てるまち」。「お互いに協力しながら、暮らしとなりわいと文化を継承するまち」……。街並みに加えて、商いや暮らしの伝統を守ることも決められてるんですね。

サコさん このビジョンは街並みの維持に加えて、昔ながらの商いや暮らしを守ることも決められてるんです。この界隈は職住一体の暮らしを営む人たちが多いので。

−−ビジョンの詳細には「江戸時代から続く商いや暮らしの論理や思想など、伝統を守っていきます」とありますね。これってどういう意味なんでしょう?

サコさん たとえば、深夜営業のないお店であっても、高層ではない住宅であっても、ネオン看板がものすごく光っているとか、ものすごく色彩の強い外壁の建物がここに建ったらどうでしょう。

−−あ〜。この姉小路界隈の景観や雰囲気のバランスが一気に崩れちゃいますね……。

サコさん そう。建築のルールだけではなくて「このエリアはどういう街で、どういう考え方で街づくりをしている・していく必要があるか」というスタンスの共有が、住む人たち・商いをする人たち双方に向けてしっかりなされているところが、姉小路界隈のすごいところ。

−−へええ〜!

サコさん だからこの界隈で、新しく建物を立てるとか、お商売をはじめるとか、あるいは町家の改修をする際には、この界隈の協議会との意見交換が必要なんです。

−−そうか、だから古い町家だけじゃなく、新しく建てられた物件も町家の風情を取り入れていたり、落ち着いた色合いだったりするんですね。

サコさん 低層のビルやマンションなんかもそうですよね。鉄筋コンクリートの建物だけど「なんか雰囲気合ってるなあ」って思わせるつくりになっている。新しく入ってくる人であっても、老舗の改修であっても、協定がOKを出してはじめて取りかかれる。

−−ひえ〜厳しい!でも、だからこそ他の通りに比べて、トーンマナーが揃った景観ができるんですね。この通りの雰囲気は、街の人たちの自主性によってつくられたものなのか。

サコさん ここで一度、三条通に入って景観の違いを比べてみましょう。景観の違いの理由を知ると、見える光景もまた違ってくると思います。

−−おお、全然違いますね〜!100mちょっと南へ歩くだけで、繁華街の賑わいだ。町家を含めた木造建築が全然ないですね。

サコさん 建物の高さやテイストもかなり個々で違ってますよね。

−−そういえば姉小路通のお店には、袖看板や壁面看板がぜんぜんなかったですね。いわゆる老舗の扁額的な渋〜いものばかりでした。

サコさん 看板をはじめとする掲示物や街灯に関しても、姉小路界隈は協議会の審査対象になるんですよ。景観って、建物だけじゃなく、その周辺の色々なものが影響してできてるんで。

−−三条通に関しては、姉小路通ほど厳格ではないゆえにたくさんのお店が入居できるし、掲示物も出せる。だからこそつくり出せる賑わいがあると思うので、うまく住み分けできることが大事なのかなあ。

サコさん そうですね。ただ私個人が三条通の景観でもったいないなあって思うのは、中京郵便局とか、京都文化博物館とか、歴史的な近代建物が多いんですよね。せっかくすてきな建築物なのに、周囲にいろんなビルが立ちすぎていて見えにくくなってしまっている。

−−ああ〜そうですよね。木造の低層建築が並ぶなかに、どーんとでっかいレンガの建築物があるからよく目立つというのはあったでしょうね。

サコさん 目の前に来ないと歴史的建造物のインパクトが伝わらないっていうのはね、すごくもったいないですね……。

−−とはいえ昔から賑わっていた三条通だからこその発展もあると思うので、難しいですね。ただ遊ぶだけじゃなく通りの成り立ちを知って、こういう難しい問題について考えていくことが大事なのかもしれない……。

 

協定の維持・世代交代の課題はどうする?界隈の人々に聞いた「いま」

サコさん さて、再び姉小路通に戻ってきました。以前、私も学生たちと「姉小路界隈を考える会」について調査したことがあって。ちょっと街の人にも話をきいてみましょう。

−−立派な建物ですね!こちらはどなたのお宅なんですか?

サコさん 「姉小路界隈を考える会」の会長のお宅なんですよね。いらっしゃれば、話聞けるかもしれないな。すみませ〜ん!

サコさん あ、どうもこんにちは。いま姉小路界隈をちょっと歩いてるんですけど、会長さんいらっしゃいます? 以前お会いしたことがあって。

奥様 ああどうも、存じ上げてます。いま夫は不在なんですけど……よかったら中、入らはります?

サコさん ありがとうございます。ちょっと中を軽く見学させてください。

−−おお、すごい。玄関に立派な看板が。

奥様 もともとここが本来の玄関先だったんですけど、この建物も年季が入ってて、屋根の重みがぜんぶ軒先に集中してしまうらしくて。それで去年、重みを軽減するために玄関先のさらに先に、いまの入口をつくったんですよ。ちょっとね、扉開けてもらわないと看板も見えなくなってしまったんですけど。

サコさん だいぶ大きい商家建築の町家ですね。なにかお商売を?

奥様 おじいちゃんの頃までは砂糖問屋をやってました。いまはお商売関係なく、この建物の利用と言いますか、昔の「おくどさん」を改装して、ギャラリーにしたいなあって考えてるんですよね。

サコさん 「姉小路界隈を考える会」は、旦那様が中心人物だったんですよね。

奥様 そうですね。すぐ向かいにマンションが建つっていうので。当時はこのへん、ビルやマンションなんてぜんぜんなかったですし。南側に高い建物が建つとなると、日照権の問題もあるでしょ。まあ……いまは手に負えないくらい周辺は高い建物でいっぱいですけど。

−−いま界隈の活動としてはどういうことをされてるんですか?

奥様 界隈の住民たちと、新しく入ってこられる人たちとで月に1度、定例の会議はしてるんですよね。建物の規制や条件なんかは守っていただいてますね。会議には京都市の方も来てくださってますし。ただやっぱり、住人がね……。

サコさん みなさん年齢的にもね。

奥様 そうですね。歳もいったなかで積極的に活動するっていうのも大変じゃないですか。協定の範囲外の場所はもうあっというまにビルが建つから、なかなか手がまわりませんね。

サコさん 周辺の環境の変化が速いから、会の維持をどうするか課題ではありますね。お話を聞かせていただきありがとうございました!

奥様 いえいえ。寒いなかご苦労様です。

サコさん もう一軒のぞいてみましょう。豆腐の平野屋さん。あ、こんにちは。ちょっと前も多分お邪魔させていただいたかと思うんですが。今日もまた、建築協定のことで街を歩いてまして。

平野さん ああ、前に来てくれたことありますよね。覚えてますよ〜。

サコさん 最近の話なんかを聞かせてもらいたいんですが。ここのところはいかがですか。

平野さん う〜ん、目立ったことはあんまり……。僕も去年、怪我なんかもあってお店を閉めてた時期もあったし、「姉小路界隈を考える会」の立ち上げメンバーも歳ですしねえ。

サコさん そうですよね。マンションの反対運動されてた頃はみんな若かったですし。界隈の建物はけっこう変わりましたか? お店が増えているとか、住宅が増えているとか。

平野さん 三条通に近いところは空き家ができると埋まるのも早いけど、この界隈はあんまり変わらんね。古いままの建物も多いし、空き家も増えてきてるしね。

サコさん 空き家が増えてるんですか。

−−すごく中心地なのに?

平野さん 昔からここでお店やってる人は持ち物件が多いけど、新しくお店やるってなったら、中心地やから家賃相場が高いでしょ。協定があるから土地を買っても好きに建物を建てられるわけじゃないしね。

−−協定があるから街の景観が保たれてるけど、協定があるから新しい人が入ってきにくいってこと……? あっちを立てればこっちが立たない問題!

平野さん 貸さずに空き家のままにしてるところも多いですよ。あとは……、お店は減ったねえ。どうしてもね。八百屋だったところもパン屋だったところも、普通の住宅に建て直して住んではる人も多いね。

−−うーむ、難しい課題すぎる。

サコさん 条件の厳しい建築協定があること自体で障壁になっていると。でも協定を緩和すると、三条通や御池通と変わらない街並みになってしまうと思うんです。この景観があるから姉小路通の価値もあるでしょうし……。

−−都心部でこんな街並みが残ってるのはすごくレアだと思うけど……。目まぐるしく街の様相や価値観が変わるからこそ、界隈のこれからがどうなっていくのか気になります。とりあえずわたしに今できることは……豆腐を買います!

平野さん あっはっは、どうもありがとうございます!

 

界隈が守ってきた街並みは、商業施設のあり方にも影響を与えている?

サコさん 最後は新風館のほうにも行ってみましょう。

−−もともと京都中央電話局の建物だった、いわゆる三条周辺に多い、近代レトロ建築のひとつですよね。2020年のリニューアルで、すごく様変わりしましたよね〜。

サコさん そうですね、ホテルと商業施設と、映画館も入ってますし、この中庭も気持ちいいですよね。いろんな目的の人が行き交っている。私はよく、エースホテル1階のカフェスペースを利用しますね。宿泊客じゃなくても自由に使える感じがいいですね。

−−前回の西陣の時に話してた「共同体」の話にも繋がる話ですよね。

サコさん 「宿泊客じゃない人はここ使えないです」とか「買い物にきた人じゃないとここ通れないです」みたいな分け方をしないシームレスな空間だから、こうやって人が集まるのかもしれない。この辺をブラブラしていたら、よく「とりあえず新風館のなか通るか」ってなります。

サコさん 新風館は北側が姉小路通に接してますよね。新風館もまた「姉小路界隈を考える会」が守ってきた街のあり方に影響を受けた施設のひとつなんです。

−−どういうことですか?

サコさん 新風館がリニューアルする際に「姉小路界隈を考える会」が開発の事業者と協議をして、電線の地中化をしたんですよ。通る時に上を見ると、新風館のところは、視界を遮るものがないんですよね。

−−ほんまや……確かに電線がない!だからこそ建築デザインが視界いっぱいに入ってきますね。

サコさん 大規模なリニューアルだったけど、姉小路通の雰囲気に溶け込むような外観ですよね。ホテル部分は新しい建物なのに、古い建物が残る界隈の雰囲気をしっかり踏襲している。だから人で賑わっていても、どこか落ち着いた雰囲気を持っている気がしていて。

−−お店のラインナップを見ている限り、ユーザーの年齢層として若年層は少なそうですね。じゃあもし、「姉小路界隈を考える会」が存在しなくて、開発ニーズそのままに高層住宅が乱立する通りになっていたら、いまの新風館はなかったかもしれない……?

サコさん まったく違う商業施設になってたんじゃないかな。

−−姉小路界隈の住人たちが守ってきて、街に与えた影響、すごい……!

 

おわりに

「姉小路通りってなにがあるんやっけ」「あんま印象のない通りじゃない?」

京都在住で、三条〜御池界隈によく行く人であっても、ぶっちゃけこういう印象を持っている人は少なくないはず。お恥ずかしながら、私も多少そういう印象は持ってました。繁華街と繁華街のあいだの、エアポケット的な存在だと。

しかし、そうではなかった。どれだけ周辺が大規模な開発の波に飲まれようとも、街の人が街のあり方を手放さず「自分たちの街の価値はここにあるんだ」と価値観を繋ぎ続けてきたストーリーがあるからこそ、今日の姉小路通の光景があるということを知れました。

同時に、界隈を歩くなかで見えてきたのは、協定があるからこそ新規参入のハードルがあるとか、周辺の開発が止まらないとか、会の運営が高齢化で大変だとかの課題。しかし、それらの課題もこうして姉小路界隈のストーリーが知られていくことで、解決の糸口が見つかるのかもしれませんね。もちろん、変化しないことがいい!とか、開発断固拒否〜!ということではなく。

さまざまな価値観や方向性で全国の街が発展していくなか、新しい考え方も取り入れながら、守ってきた暮らしや商いの方法や哲学とどうミックスさせていくのか。新旧のすがたをうまく融合させながら、昔からいる人・新しく来る人の双方に価値のある街をどう創造していけばいいのか。それらのテーマを、その場所で生きる人たちが自ら考えていく様子に、京都らしい持続可能性のあり方があるのではないでしょうか。

取材協力:姉小路界隈を考える会 / 平野とうふ

Profile
ウスビ・サコ
京都精華大学 前学長 / 全学研究機構長 / 人間環境デザインプログラム教授

マリ共和国生まれ。北京語言大学、南京東南大学を経て来日。1999年、京都大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程修了。博士(工学)。専門は空間人類学。「京都の町家再生」「コミュニティ再生」など社会と建築の関係性を様々な角度から調査研究している。京都精華大学人文学部教員、学部長を経て2018年4月同大学学長に就任(~3月2022年)を経て現職。暮らしの身近な視点から、多様な価値観を認めあう社会のありかたを提唱している。

主な著書に『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』(大和書房)、『アフリカ出身 サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)など。2025年日本国際博覧会協会 副会長・理事・シニアアドバイザー兼任他。
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Writer
ヒラヤマ ヤスコ
ライター
ライター・編集者・ときどき料理人。逗子と京都の二拠点生活。ローカルコンテンツや民俗学と食文化と酒場が好きで、さまざまな媒体で執筆や編集をおこなう。
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