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吉武 諒人さん
絶滅危惧種を救う活動を行う中学生
インタビュー・文:小倉 ちあき
撮影:佐々木 明日華
Stories2023.07.03
Vol. 12
「生きものが好き、だから守りたい!」2022年度京都環境賞(大賞)を受賞した中学生に聞く、生きものたちの未来とは?
2023.07.03
インタビュー・文:小倉 ちあき
撮影:佐々木 明日華
川沿いの遊歩道を自転車で散歩したり、三角州に集まったり、飛び石で遊んだり……京都市内の南北を流れる約23kmの河川・鴨川。昔も今も変わらず、京都人の憩いの場として親しまれてきました。

そんな鴨川にも、絶滅寸前種や絶滅危惧種等の生きものが生息していることはご存じでしょうか? 多くの生きものが暮らしている自然豊かな鴨川で、淡水魚を調査している中学生がいます。

2022年度京都環境賞(大賞)を受賞した吉武諒人さんは、YouTubeやSNSを通して、生きものの大切さを伝える情報を日々発信しています。お魚観察には絶好の晴れた日、吉武さんと一緒に鴨川で“ガサガサ”しながら、生きものたちの未来について、お話を伺いました。
目次

鴨川でガサガサしてみた!

吉武諒人さん(以下、吉武さん) あ、やった! これ、アカザです。絶滅危惧Ⅱ類です。動き方や丸っこい顔が可愛いんですが、胸ビレと背ビレに毒のある棘条(きょくじょう)があるので、素手で触らないように気をつけてください。

小倉ちあき(以下、小倉) こんなに簡単に見つかるなんてびっくり! 赤くて可愛い…。

吉武さん 石の下に隠れているんです。こうやって石をひっくり返して網に追い込むんです…(ガサガサしながら)、あ! これは、カワヨシノボリです。分類はスズキ目ハゼ科ヨシノボリ属。この魚は種類が多くて、生息する地域や環境によって種類が変わるんですよ。

小倉 この辺りにたくさん住んでいるんですね。種類を見分けるのが大変そう。

吉武さん ほらこうやってよく見ると、ヒレが綺麗で、背ビレは少し大きいです。派手な方がオスなんです。

小倉 へえ、確かに光に透かして見ると、色や模様がとても美しいですね。

吉武さん これはオオシマドジョウ。日本在来種で、日本最大級のシマドジョウです。模様が綺麗で、顔がめちゃかわいい。僕の推し淡水魚のうちのひとつです。

小倉 どのくらいの頻度で、こうやって鴨川に来ているんですか? あと何のためにガサガサしているんですか?

吉武さん 週に多くて3回くらいです。学校が終わってから、準備をして、自転車で鴨川に来ます。理由は、単純に魚に触れたいから。珍しい魚が捕れると嬉しくなります。あと、川の中にいると気持ちが落ち着くんですよね。リフレッシュするというか。

小倉 私も今日初めてガサガサに同行してみて、水の音や生きものに触れてとても癒やされました。生きものが一気に身近になった気がします。

吉武さん 自宅には、水槽5つと庭にビオトープが3つあります。

小倉 やることがたくさんありますね! ちなみに、吉武さんはいつ頃から生きものが好きなのですか?

吉武さん 母は2歳くらいだと言っています。気づいた頃から好きで、きっかけや理由は特にありません(笑)。生きもの全般が好きですが、小学校5年生くらいから特に日本淡水魚に興味を持つようになりました。

小倉 熱帯魚じゃなくて?

吉武さん はい、日本淡水魚の方が好きです。うーん、なんでだろう…、身近に触れられるからかな? 熱帯魚の方が色鮮やかだけど、僕は日本淡水魚の色やかたち、生態が好きです。

とった魚は鴨川にリリースします

 

クラウドファンディング、YouTube。自分にできることからまず始める

小倉 小学校6年生~中学校1年生の時にクラウドファンディングで、約50万円の支援金を得て、自然保護団体に支援されましたよね。オリジナルイラスト缶バッチや絶滅危惧種大図鑑というリターンも魅力的でした。どういう理由からですか?

吉武さん 書籍、図鑑やネットで生きものについて調べていると、生きものが減少していることを知って驚いたんです。生きものがいなくなると僕は悲しい。そして生きものが減っている原因はほとんど人によるもので、生きものが減少すると人にも害があると知りました。

小倉 なるほどです。

吉武さん これは守らなければいけない、と思って自分にできる活動を始めました。日常的に川に行くだけでなく、イラストを描いてSNSに毎日アップしたり、YouTubeの更新をしたりしています。自分で決めてやっているだけですが、毎日忙しくて勉強どころじゃないです(笑)。

写真下:「絶滅危惧種大図鑑」は吉武さんが1年以上かけて130ページ以上を手書きした力作!

小倉 毎週更新されているYouTubeチャンネル「うぱさん」も面白いです。生きものや絶滅危惧種の知識についての説明がわかりやすくて、「メダカ」の回など、大人の私にもすごく勉強になりました。イラストも吉武さんが描いているんですよね。

吉武さん わかりやすかったですか? 良かったです。活動を始めてみて、小さなことでも続けていると周りの人が認めてくれるようになりました。有名なYouTuberの方とコラボする機会があったことも嬉しかったです。反応が見えると、僕って頑張れてるんやなと実感も出てきました。

小倉 続けていくモチベーションになりそうですね。

描いたイラストは自身のInstagramにもアップされています

吉武さん 小学校4年生の時には、担任の先生が授業をひとつくださって、クラスの皆の前で絶滅危惧種についての発表をしたこともあります。どうすればみんなに伝わるかを考えて準備しました。

小倉 とてもいい機会ですね! どのような発表をされたのですか?

吉武さん 生きものが減少している現状などを伝えて、それを防ぐために僕たちに何ができるかを提案しました。具体的には地球温暖化を防ぐために節電すること、ゴミを減らすこと、環境を破壊して作られた製品を買わないようにすることなどです。僕自身も生活の中でなるべく気をつけています。

小倉 2022年には京都環境賞(大賞)を受賞されましたよね! 応募しようと思ったきっかけがあれば教えてください。

吉武さん 町内に貼られていた屋外ポスターを見たんです。僕が応募していいやつちゃうかと思って、とりあえず応募してみました。そしたらまさかの大賞で。受賞者には電話がかかってくると聞いていましたが、あまり期待はしていなかったので、電話かかってきた時にはびっくりして家の中走り回っていました(笑)。

小倉 喜んでいる様子が目に浮かびました。受賞後にご自身の気持ちの変化などはありましたか?

吉武さん 大人の方、専門家や研究者の方が、声をかけてくれるようになりました。いろいろと教えてもらったり、いろんな魚の調査に連れて行ってもらうようになりました。

 

生きものに優しい世界は、きっと人にも優しい世界になる

小倉 やっぱり吉武さんも将来は研究者になりたいですか? 

吉武さん とても興味がありますが、まだ分かりません。もし研究するとしたら淡水魚専門の研究がしたいですね。僕の将来の目標は、生きものを守ることです。ただ「守る」と一重に言っても守り方の手法がさまざまあるなと最近感じています。自分なりの方法を見つけたいと思っています。

小倉 研究・保護や、より大きな自然環境の保全など、どこに視点を置くかでも変わりますもんね。吉武さんが大人になった頃、例えば、10年後や20年後に、どんな世界になっていてほしいと思っていますか?

吉武さん 生きものがたくさんいる世界。皆が生きものに配慮するような優しい未来になっていたらいいなと思います。絶滅危惧種の数は年々増えています。捕りすぎないようにしたり、外来種の放流やペットを野外に逃がしたりすることを止めたり、地球温暖化など環境破壊をしないようにするなど、できることはいろいろあると思います。

小倉 この世界に生きる皆が、生きものに配慮した暮らし方ができるようにしていきたいですね。私も意識していこうと思います。

吉武さん はい、まず現状を多くの人に知ってもらうために、僕ができる発信活動はこれからも続けていきたいです。今年は10月に開催される生きもの好きが集まるイベント「いきもにあ2023」への出展も控えています。初めてのチャレンジなので、ドキドキ。グッズ販売をするために準備をしている真っ最中なんです。

小倉 どんなグッズなんだろう…ちょっと教えてくださいませんか? 

吉武さん まだ開発中ですが、琵琶湖の淡水魚カードゲームを作っています。着想を得たのはポケモンカード。「淡水魚のカードがあったら、僕なら集めたいな」と思ったので。ゲームを通して魚に興味を持ってもらって、生きものを守りたいと思ってもらえたら嬉しいです。

開発中のカードゲーム。はじめての制作とは思えないほどのクオリティ!

小倉 吉武さんの生きものへの愛情は周りに伝わっていると思います。発信し続けるってすごいですね。波紋が広がるように伝わって、もっと生きものに優しい世界になればいいなと思いました。応援しています!

 

おわりに

取材を通して感じたことは、吉武さんはシンプルでかっこいいということ。そういうと誤解を招きそうですが、「自分がなくなると困るから、自分ができることで守りたい」という強い思考・姿勢と行動力に、大人の私は学ばされました。伝えるという行為をあまり気負いすぎず、自分に合った手段で世のツールに乗って、とにかく始めてみればいいのかもしれません。

絶滅危惧種は現在40,000種以上と言われています。地球温暖化も間違いなくその原因のひとつです。私たちができることはなんだろう? 改めて考えてみました。ペットボトルではなく水筒にする、夜は電気を落としてリラックスタイムにするなど日々の生活の延長上でできる、小さな活動から始めてもいいんじゃないかって。

普段眺めている鴨川にもう一歩近づいてみる…。川の中に手を入れてみるだけで、生きものの存在をこんなにも感じられます。この体験が優しい世界をつくる大きな一歩に繋がるかもしれません。

Information
京都環境賞

京都市では、市民や事業者の皆様の環境に関する関心を高め、様々な実践活動の更なる推進を図ることを目的として、平成15年度に京都環境賞を創設し、地球温暖化の防止、生物多様性の保全や循環型社会の推進等の環境保全に貢献する活動を実践されている方を表彰しています。
2023年度も、8月31日(木)まで募集を行っております。皆様のご応募をお待ちしております。詳細はウェブサイトからご確認ください。
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Profile
吉武 諒人
絶滅危惧種を救う活動を行う中学生

2022年京都環境賞(大賞)を受賞。幼稚園に入る頃には100種以上の魚を知っていた。YouTube番組「うぱさん」運営、SNSやオリジナルグッズ販売など通して、生きものの大切さを日々伝えている。
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Writer
小倉 ちあき
ライター
地域・アート・暮らしの領域で主に活動。インタビュー・作品執筆・編集など。企画・取材に合わせて、各地を移動する。情報と知識の境界線を越えて、有機的につなぎあわせる編集術を日々模索する。
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