撮影:佐々木 明日華
シカを追いかけていたら、地元の話になっていた。高校生が見つけた野生鳥獣問題の奥にあるもの【未来探究プロジェクト前編】
撮影:佐々木 明日華
農作物被害、担い手不足、ジビエ活用の壁……。
京都府内の高校生たちがこの問いに向き合う探究プログラムに参加しました。福知山市と舞鶴市、二つの現場を歩いた高校生たちの言葉を追います。
高校生が挑む、野生鳥獣との未来を考える探究プロジェクト

令和8年度の「KYOTO地球環境の殿堂」(※)の未来探究プロジェクトのテーマは「人と野生鳥獣の関係」です。府内在住・在学の高校生30名が、5月のオリエンテーションを皮切りに、7・8月に福知山市での「野生鳥獣の対策に取り組む地域と野生鳥獣の処理施設の視察」と舞鶴市での「狩猟体験ができる農家民宿とその周辺での野生鳥獣の捕獲・解体見学やジビエ料理の試食体験など」をフィールドワークとして重ね、9月に参加者全員で考察・まとめを実施。11月の国際シンポジウムでの成果発表を目指しています。

今回、このプログラムに参加した高校生の桑原さん、平木さん、和多田さんの三人に話を聞きました。
<プロフィール>
・桑原さん
京都市立紫野高等学校に在学
福知山・舞鶴フィールドワーク、考察・まとめ回に参加
・平木さん
京都市立開建高等学校に在学
福知山・舞鶴フィールドワーク、考察・まとめ回に参加
・和多田さん
京都市立開建高等学校に在学
舞鶴のフィールドワークに参加
(※)「KYOTO地球環境の殿堂」は、京都議定書誕生の地である京都から、地球環境の保全に貢献した人物の功績を世界に発信する取り組みです。未来探究プロジェクトは、京都議定書発効20周年と「KYOTO地球環境の殿堂」創設15年を契機に令和7年度から開始した取組です。同年度に開催した「未来会議」の成果を発展させ、若者が環境課題について探究し、その成果を発信することを目的としています。
KYOTO地球環境の殿堂 WEBサイト
URL:https://www.pref.kyoto.jp/earth-kyoto/
「ハンターを増やせばいい」が崩れた日

桑原さんは、幼いころから動物や虫、自然が好きだったそうです。祖父母の自然と関わりながら暮らす姿を見て育ってきたなかで「猟師さんの暮らしってどんな感じなんだろう」と興味を持つようになり、今回のプロジェクトに参加しました。
7月、福知山でのフィールドワークに参加する前、桑原さんはこう考えていました。
「ハンターを増やして捕獲を積極的に進めれば、獣害問題は比較的簡単に解決できるのではないかと考えていました」(桑原さん)
桑原さん
しかし、実際に野生鳥獣対策に取り組む地域の人から話を聞くうちに、その考えは変わっていきます。捕獲した個体を食べるのではなく焼却する場合があること。ジビエとして活用できないことがあること。飼料にすらできない場合があること。「ハンターが捕獲すれば解決」ではなかったのです。
同時に印象に残ったのは、人口の少ない集落で、高齢者を含む住民たちが獣害対策を続けている姿でした。
野生動物から農作物を守るため、畑の周りには電気柵が張られている

「高齢者の方々が、遠隔で監視と捕獲が可能な罠や、LINEでの情報共有などICTも活用しながら獣害対策に取り組んでいる点に驚きました」(桑原さん)
担い手が足りない、ということが、桑原さんの中で少しずつ引っかかるようになっていました。
命を奪う瞬間から、目をそらさずに
高校生たちの視線の先では解体所へ運ぶ前のシカの洗浄が行われている
一方、環境系の大学への進学を考えている平木さんは、シカの捕獲・殺処分の実態を知るところから探究をスタートさせました。ジビエという言葉は知っていたものの、身近に感じたことはなかったといいます。
平木さん
8月、舞鶴でのフィールドワークでは、捕獲から解体、そして食べるまでの現場を見学しました。
見学前、平木さんが想像していた捕獲・解体は「血だらけで激しい」光景でした。しかし、実際の現場は違っていました。
「思っていたより血が少なく、動物への負担も抑えられているように感じました。そしてシカが命を失う場面を初めて見たことが強く印象に残りました。」(平木さん)
積極的に解体作業に関わる高校生の様子
命が失われる過程を見たことで、平木さんの中に新しい感情が生まれます。それは、単純な「良い・悪い」では割り切れないものでした。
「さっきまで生きていたシカを、人間側の都合によって捕獲し、命を奪うことは純粋にショックで悲しい光景でした。同時に人間の身勝手さも感じます」(平木さん)
重さ40キロのシカと、一人の担い手
舞鶴の現場に、桑原さんも立ち会っていました。目の前に横たわるシカは重く、一頭約40キログラム。その解体を基本的に一人で担当すると知り、驚いたといいます。


「解体作業は基本的に一人で担うと聞き、暑い時期に重い個体を扱いながら作業を続ける肉体的な負担の大きさを実感しました」(桑原さん)
福知山で「なぜもっとジビエとして活用しないのか」と感じていた疑問も、ここで形を変えます。すべての個体を食肉にできるわけではないこと。技術を持つ人、それを教える人とのつながりがなければ、活用の輪は広がらないこと。「なんでもっとジビエにしないんだろう」と思っていたけど、実際に現場を見たら、そんな簡単な話ではありませんでした。「なんで活用しないんだろう」から、「じゃあ、どうすればできるんだろう」へ。桑原さんの疑問は、少しずつ具体的な解決策を探るものへと変わっていきました。
野生動物は人間を困らせるために行動しているわけではありません。かといって、人の生活を守るためには被害を放置することもできません。「すべてを駆除すればいい」という結論にはならない。答えがすぐに出るような話ではない、ということが徐々にわかってきたようです。
地元なのに、知らなかった

同じ舞鶴のフィールドワークには、地元・舞鶴出身の和多田さんもいました。参加の決め手は、学校で見かけたチラシです。
「以前から環境や獣害問題に特別な関心があったわけではありません。でも舞鶴というワードが気になって。地元のことを全然知らないまま離れてしまったので改めて知り直したいと思ったんです」(和多田さん)
和多田さん
野生鳥獣の処理といえば、複数の個体をまとめて手早く処理していく、和多田さんはそんな光景を想像していました。しかし、実際に見た現場は違いました。
「肉にするための処理は、複数の個体を一度に進める作業をイメージしていましたが、実際には一頭ずつとても丁寧に扱われていて、その違いが印象に残りました」(和多田さん)
もうひとつ、心に残った言葉があります。現場で働く担い手が語った、仕事についての一言でした。

「大変でも面白いから続けている、という言葉が最も印象に残りました。自分自身も、興味や関心を持てるものを選ぶことが大切だと感じました」(和多田さん)
そして、地元・舞鶴への見方にも変化が生まれます。
「鳥獣問題も自分の地元にある課題の一つだと実感しました。これまでは少子高齢化の印象が強く、鳥獣問題についてはほとんど知りませんでしたが、ふたつの問題はつながっているのではないかと感じるようになりました」(和多田さん)
別々の問題が、線でつながる

福知山、舞鶴。現場を歩くほどに、三人は同じことに気づいていきます。「獣害問題」というひとつの言葉の中に、実はいくつもの別々の問題が折り重なっているということです。
桑原さんが福知山で見た「高齢者がICTを使って頑張る姿」と、舞鶴で知った「一人で40キロの解体を担う大変さ」。同じ担い手不足という課題の、二つの違う顔でした。平木さんが舞鶴で知った「命をどう扱うか」という問い。そして、和多田さんが地元・舞鶴で見つけた「獣害問題と少子高齢化のつながり」。担い手の話、命の話、地域の話。別々に見えていたものが、フィールドワークを重ねるうちに、一本の線でつながっていきます。

9月、「考察・まとめ」のワークでは、桑原さんと平木さんが「どんな未来にしたいか」から具体的な行動を考える課題に、他の生徒と一緒に班になって取り組みました。理想を語ることはできても、そこへ至る道筋を組み立てるのは難しかったといいます。班で一度は形になったと思った案も、「現実とのつながりが弱い」という指摘を受け、組み直すことになりました。
対話は、時に思いがけない方向へも転がります。「もっと緑を増やしたい」という声から、空に浮かぶ島をつくるような、突飛な発想が飛び出したこともありました。実現できるかどうかより先に、自分では思いつかない考えに触れること自体が面白かった、と桑原さんは振り返ります。
ほかの参加高校生たちの声

このプログラムに参加したのは、桑原さん、平木さん、和多田さんだけではありません。今回のフィールドワークに参加した高校生たちへのアンケートには、同じような気づきの跡がいくつも残されていました。
高校生の頃からシカと森林生態系の研究を続けてきたという生徒は、こう振り返っています。「鹿に関する課題は倫理的、社会的、生態系、資源など多方面の分野からのアプローチが必要で、結局は地球温暖化や気候変動、二酸化炭素の問題にまで発展していく先のつながりを、少しずつ認識できるようになってきた」。
自分の暮らす地域を振り返った生徒もいます。「自分が住んでいる地域に置き換えて、人手不足や鳥獣問題が見えるようになった。地元でも電気柵が通っていたり、金網で保護してあったりする。自分が知らなかっただけだと思い知らされた」
解体作業をじっと見守る高校生たちの様子
解体現場を見た印象も、一様ではありませんでした。「鹿の命を奪う瞬間は、みんな言葉を失っている様子だった」と振り返る生徒がいる一方、班のメンバーが漏らした「もっとグロテスクだと思っていたけど、意外とそうでもなかった」という一言に、自分も同じように感じたと共感した生徒もいました。
猟師という仕事そのものに目を向けた生徒もいます。「猟師への手当てが労力に見合っていないと感じた。やりがいだけでは続かないので、技術や後継者問題が以前より気になるようになった」。
昨年の未来会議の大学生メンターが高校生の言葉を引き出す役割も
また、班での議論のなかで「そもそも人類は残り続けるべきなのか」という意見が飛び出し、驚いたという声もありました。
関心の入り口は、生徒によってさまざま。答えを急がず、問いそのものを広げていく。それは、桑原さんたちだけの姿勢ではなかったようです。
それぞれのやり方で、種をまく

答えが出ないなら、何もしないのでしょうか。三人の返答は、それぞれ違う形をとっています。
平木さんは、自分にできることとしてSNSでの発信を考えています。「高校生だけで答えを出せるものではない」としながらも、「若い世代だからこそ、SNSなどを活用して現場の実情を広げられる可能性がある」と語ります。
桑原さんは、担い手不足の根っこにあるものを見つめています。狩猟という仕事を、進路の選択肢として知る機会そのものが少ないのではないか。今回のような若者向けのフィールドワークが、その機会を広げる一歩になるかもしれません。
そして和多田さんは、これから始まる対話に期待を寄せています。今回知った問題への向き合い方について、他の参加者がどう考えているのかを聞くことを楽しみにしているといいます。
まだ、探究の途中
シカの話を聞きに行ったつもりが、気づけば担い手の話になり、命の話になり、自分のまちの話になっていました。福知山と舞鶴、二つの現場から三人が持ち帰ったのは、きれいな答えではなく、いくつもの「あれ、これって?」という気づきです。
11月の国際シンポジウムで、三人はこの体験をどんな言葉で話すのでしょうか。まだ、答えは出ていません。それでも、シカや野生鳥獣の問題が自分とは関係ない話ではなくなった、ということだけは確かなようです。

第16回「KYOTO地球環境の殿堂」表彰式・国際シンポジウム

日時:11月21日(土) 13時~17時
場所:国立京都国際会館
参加費無料・要事前申込み(11月17日まで)
未来探究プロジェクトの活動発表に加え、第16回殿堂入り者で、環境保全の最前線で活躍する専門家のデブラ・ロバーツ氏による基調講演、俳優・気象予報士の石原良純氏とゴリラ研究で有名な元京都大学総長の山極壽一氏による特別対談も実施します。
若い世代と第一線で活躍する専門家との対話を通じて、人と自然が共生する未来について考えるシンポジウムです。ぜひお越しください。
詳細はこちら:https://www.pref.kyoto.jp/earth-kyoto/annai/index.html
事前申込みURL:https://pro.form-mailer.jp/lp/03f3a12c355598
主催:京都環境文化学術フォーラム
令和7年9月に開催した「KYOTO地球環境の殿堂」国際会議・未来会議において、若者が、人と自然が共存・調和するより良い未来に向けた決意やこれからの行動を発表した「未来への宣言」をレガシーとして引き継ぎ、その想いを実践へつなぐ探究型プログラムです。 未来探究プロジェクトの記事一覧へ >
ライター
現在は、22歳年上の夫と京都で2人暮らしをしながら、フリーランスのエッセイスト、取材ライターとして活動。 このライターの記事一覧へ >
