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小川 雄次さん
小川珈琲株式会社 取締役 経営企画室長
インタビュー・文:土門 蘭
インタビュー:松本 紗代子
撮影:原 祥子
Stories2022.10.14
Vol. 01
100年先も続く店を。日常からコーヒーを失わないための「小川珈琲 堺町錦店」の挑戦
2022.10.14
インタビュー・文:土門 蘭
インタビュー:松本 紗代子
撮影:原 祥子
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2022年2月、京の台所・錦市場からほど近くの場所に、小川珈琲の新しい店舗「小川珈琲 堺町錦店」がオープンしました。

コンセプトは「100年先も続く店」。
店内で提供するコーヒーは、有機JAS認証や国際フェアトレード認証などのエシカルコーヒーのみ。また、フードでは「地産地消」をテーマに京都産の食材を積極的に採用し、京都産小麦100%の食パンの開発も実現するなど、コーヒーを通じたサステナブルな社会への貢献を目指しています。

もともと、エシカルコーヒーの認知度がまだまだ低かった1990年代後半から、いち早くサステナブルなコーヒーのあり方を追求し、展開し続けてきた小川珈琲さん。
そんな小川珈琲さんが今挑戦する「変化」とは、どういったものなのでしょうか?

今年でちょうど創業70周年を迎えた小川珈琲さんが、今京都で起こそうとしている「変化」について、取締役経営企画室長・小川雄次さんにお話をうかがいました。
目次

100年前の町家から生まれた「100年先も続く店」

土門 蘭(以下、土門) 今私たちは、小川珈琲さんの新店舗、「小川珈琲 堺町錦店」さんに来ています。とても素敵な店内ですね。エントランスが吹き抜けで、中庭には緑があって、気持ちの良い空間です。

小川 雄次さん(以下、小川さん) ありがとうございます。

土門 こちらのお店のコンセプトについて教えていただけますか?

小川さん コンセプトは「100年先も続く店」です。

もともと小川珈琲は、ここ京都で70年前に創業しました。京都は、伝統と革新の街です。いつの世も革新は必要ですが、それは今まで脈々と受け継がれた上に成り立つものでなくてはいけない。伝統を大切にしながら、これから先へ発展していく革新を起こしていきたい。そんな思いを込めて、このコンセプトを打ち立てました。

例えばこの建物自体、100年以上前に建てられた京町家を改装しているんです。古いものを引き継ぎながら、新たなコーヒー文化を発信していく場所にしていきたい。そう考え、この場所に新店舗をオープンしました。



土門 
お店の特徴はどういったものでしょうか。

小川さん 新店舗では全面的に「サステナブル」であることを大切にしているのが大きいかと思います。

まず、当店でお出ししているコーヒーはすべて、有機JAS、国際フェアトレード認証など、認証マークのついたエシカルなコーヒーです。そういったコーヒーを楽しんでいただくことで、お客様が自然とサステナブルな活動に参加し、社会貢献できるお店にしています。

また、フードでもできるだけ京都産の食材を使うなど、地産地消を心掛けています。特に大きく挑戦したのは、京都産小麦100%の食パン。京都のブーランジェリー『ル・プチメック』の創業者である西山逸成さんに監修していただき、ゼロから作り上げました。

土門 京都産小麦100%の食パンだなんて珍しいですよね。そちらについてはぜひ、後ほど詳しく聞かせていただきたいと思います。

 

いくら環境によくても、おいしくなくては広まらない

土門 それにしても、小川珈琲さんはかなり前からサステナブルなことに取り組んでいらっしゃいますよね。

小川さん そうですね。環境に配慮した取り組みとしては、1990年代後半くらいからスタートしています。最初に行ったのは、有機栽培コーヒー豆の販売。当時はまだ、国内で有機栽培に関する認証制度自体できていませんでした。(1999年JAS法改正 検査認証制度導入、2001年有機JASマーク開始)

土門 そんなに早くからスタートされているのですね!まだ「SDGs」や「サステナブル」という言葉自体普及されていない時代にそういったことに取り組まれるのは、難しいことではなかったのでしょうか?

小川さん そうですね。認証系のコーヒーだと、やはりコストがアップしてしまうのがネックでした。それに、最近ではそんなことないのですが、当時は「オーガニックのコーヒーはおいしくない」とも言われていて。

私たちはまずコーヒーの「味」を大事にしているので、オーガニックやフェアトレードなど、いくらいいことを言っても、おいしくないと広まらないと考えていたんです。ですので、「ちゃんとおいしい『味』を確保しながらも、サステナブルな方法を選ぶ」ということにこだわり続けてきました。

土門 大変な企業努力をされてきたんですね。私自身もスーパーでよく小川珈琲さんの豆を購入するのですが、パッケージに「有機栽培」と書かれていて環境や体にも良さそうだと感じるし、お値段がお手頃、何よりおいしいのでいつもつい手が伸びます。

小川さん そう言っていただけると嬉しいですね。ありがとうございます。

土門 その努力が20年以上も続いているのもすごいですが、モチベーションはどこから来ているのでしょうか?

小川さん 基本的に、コーヒー豆は日本国内では取れないので輸入に頼っています。仕入れ先であるコーヒー原産国の多くが発展途上国です。これからもコーヒーをおいしく飲み続けるには、生産者にも消費者にも地球にもハッピーな取り組みをしなくてはいけない。そうすることで初めて、小川珈琲が大事にしている「おいしいコーヒーを継続的にお届けする」ということが叶うのだと考えました。それが最初のモチベーションですね。

また、コーヒーを研究するある団体から、「2050年代問題」といったレポートが発表されました。これまでコーヒー豆を栽培していた土地が、気候変動の影響で栽培に適さなくなってきているという問題です。それに加えてコーヒーを飲まなかった国の人がコーヒーを飲み始めたことで、逆に消費量が増え、供給が追いつかなくなっているんです。地球のこともちゃんと考えないと、これまで飲めていたコーヒーが飲めなくなる可能性もある。その危機感もまた、モチベーションに繋がっています。

コーヒーのおいしさを一番大事にしながら、地球、人、いろんなものに優しい形で提供する。それが小川珈琲の価値として提供できるように頑張っています。

 

京都産小麦100%の食パン作りに挑戦

土門 ここからは新店舗について詳しくうかがっていきたいのですが、既存の店舗から変化したところは何でしょうか?

小川さん まずはコーヒーの提供の仕方です。当店では「喫茶文化の再定義」ということで、昔ながらの喫茶店で行われてきた手法「ネルドリップ」での抽出を行っています。喫茶店の象徴でもある、マスターが丁寧に一杯ずつネルで淹れていく空間を、現在の技術をもってアレンジしました。

小川さん というのも、ネルドリップは抽出に熟練した技術が必要で、その上時間がかかるんです。この店は客席が40以上あるので、熟練スタッフ一人で淹れられるわけではない。それを解決するために、「TONE」という当時日本にまだ3台しかないスイス製ブリューマシンを導入しました。これはお湯の温度や量を細かく設定できるマシンで、バリスタがレシピプログラムを作成することで、一杯ずつ手で淹れるようにネルドリップコーヒーを淹れられるんです。

土門 テクノロジーの力で昔ながらの喫茶文化を継承されているなんて、とてもおもしろいですね。

小川さん はい。最先端の技術をもって、もともとあった喫茶の伝統的な手法でコーヒーを提供する。それが、この店で取り組んでいる一つ目の変化ですね。

土門 さらに、フード領域でも新しいことへチャレンジされています。冒頭でおっしゃった京都産小麦100%の食パンについて、詳しく教えていただけますか?

小川さん まず、コーヒーに合う食材とは何だろうと考えて、真っ先に思いついたのが「パン」でした。小川珈琲では現在パンを店内で焼いて提供している店舗がなかったので、それに挑戦することにしたんです。

この店は「サステナブル」「地産地消」というキーワードを大切にしているので、パンを焼くなら京都産の小麦で作れないだろうかと考え、いろいろと探し始めました。でも、そこからが大変で……。

土門 と言うと?

小川さん そもそも、京都産の小麦自体があまりないんです。それに、京都産小麦はタンパク質の含有量が少ないようで、食パン作りには向いていませんでした。そこで、京都のブーランジェリー『ル・プチメック』の西山さんに監修をお願いすることにしたんです。「100年先も続く」というコンセプトの店なので、毎日食べても飽きない食パンを作ってほしいと。そこから、試行錯誤が始まりました。

土門 特に難しかったのはどういう部分でしょうか?

小川さん やっぱり、食パンを膨らませる段階ですね。うまく膨らまなかったり、折れてしまったりして。

土門 基本的に、パンの小麦にはアメリカやカナダ産のものがよく使われているそうですね。そちらで作られているものの方が、パン作りに向いているそうで。

小川さん はい。でも、私自身これに挑戦するまでそんなこと知らなくて(笑)。開店ギリギリまで「本当にできるのかな?」という状態でした。

土門 じゃあ、これができあがった時は嬉しかったでしょうね。

小川さん はい、社員の反応もすごく良くて、「とてもおいしい!」と喜んでもらえた時は嬉しかったです。西山さんは、「毎日食べても飽きない食パン」ということで、砂糖やバター、脱脂粉乳などを使用しないシンプルな素材で、極力余分なものを入れずに作ってくださいました。ですので、京都産小麦粉自体の特徴を一番よく感じられる食パンだと思います。

土門 本当にそんな感じですね。私も先ほどいただきましたが、もっちりした食感にさっぱりとした口当たりで、それこそいくらでも食べられる「ご飯」みたいな……。

小川さん まさに、社内では「飯(めし)パン」と呼ばれていました(笑)。

土門 これをきっかけに京都の小麦でパンが作られるようになったら、食料自給率も上がりますね。

小川さん そうですね。小麦もそうですが、当店では、卵や豚肉、抹茶や米糀など、なるべく京都産のものをフードやドリンクに使用しているんです。ここで、京都産のものをおいしく楽しんでいただけたらいいなと思っています。

 

どれだけ自然に無理なく、みんなの行動を変えていけるか

土門 お客様の中にはやはり、SDGsやサステナブルを意識して来られる方も多いのでしょうか?

小川さん いえ、体感的にはそういう方は少ないですね。多くの方はコンセプト云々よりも、通りがかりだったり、「新しい小川珈琲の店舗だ」と興味を持たれて入って来られる方が多い印象です。

だけど、それでいいと思っているんです。その結果、当店のコンセプトに触れて、SDGsやサステナブルに興味を持っていただけたらいいな、と。

松本 紗代子 私自身ミーハーなので、このお店ができた時にすぐに来たんです(笑)。コンセプトを知らずに来たのですが、いざ入ってみるとさまざまな取り組みがなされていて驚きました。こういう取り組みって、それ自体は意義のあることなのに、強制させられる雰囲気を感じると足が遠のきがちです。でも小川珈琲さんからはそのような空気を感じることがなく、バランスが絶妙だなと思いました。そこは、どのように工夫されているんですか?

小川さん やっぱり、我慢してやるのでは続かないと思うんですよ。どれだけ自然に、無理なく、お客様の行動を変えていけるかだと思うんです。

例えばこの店でやっているコーヒー豆の量り売りも、袋は別売りなんです。テイクアウトのコーヒーも、紙コップは別料金。自宅からタンブラーや容器を持ってきていただけたら、そちらに入れさせていただいています。まずはそういうところから始めて、みんなで自然にゴミを減らしていけたらと思っています。

土門 環境のために何かするって、「何か我慢しなくてはいけない」というネガティブなイメージもありますが、このお店の空間の素敵さや、コーヒーや食事のおいしさなどが、それを払拭してくれている気がします。ここで心地よく過ごすことが自然と環境のためになるという導線は素晴らしいですね。

小川さん ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいですね。

 

昔のものを「鑑賞する」のではなく「使う」こと

土門 そんな小川珈琲さんが考える、「京都らしい持続可能な暮らし方」について教えていただけますか?

小川さん 京都の街には、古いものが身近にたくさんありますよね。この店同様に、100年以上昔の町家を改装しているレストランやカフェなどもいっぱい見かけます。

実は今座っていただいているその椅子も、1960年代にドイツの学校で使われていた椅子なんですよ。それをきれいに手入れして、店内で使っているんです。

土門 えっ! そうなんですね。60年も前のものに座っているなんて気づきませんでした。

小川さん そのように、昔のものを美術品や骨董品として鑑賞するだけではなく、日常の生活の中で使っているのが京都の特徴だと思います。「京都らしい持続可能な暮らし方」のヒントは、ここにあるのではないでしょうか。それは、このお店に来ていただけることで感じ取っていただけるのではと思います。

土門 本当にその通りだと思います。では最後に、これからどんな変化を起こしていきたいかを教えてください。

小川さん 「コーヒーを日常にとってかけがえのないものにしたい」。それが私たちの夢です。コーヒーは嗜好品だと言われていますが、特別なものではなく日常のものとしてある状態を作り出したい。そのためにも、コーヒーを飲むことで、地球にも人にいいサイクルを生み出せるような動きを作り出したいですね。

土門 私自身、いつまでもおいしいコーヒーを飲み続けるためにも、その活動を応援していきたいと思います。ありがとうございました。

Profile
小川 雄次
小川珈琲株式会社 取締役 経営企画室長

1983年、京都市生まれ。小川珈琲株式会社 取締役 経営企画室長。京都大学工学部卒業。同大学院工学研究科修士課程修了。ブーズ・アンド・カンパニーにて経営コンサルタントとして勤務後、ペンシルバニア大学ウォートンスクールにてMBA取得。帰国後は小川珈琲にて中国や台湾などのアジア圏での事業展開を進める一方、サステナブルな事業環境構築のためSDGsの取り組みを積極的に推進。
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小川珈琲 堺町錦店
喫茶店

住所 :京都府京都市中京区堺町通錦小路上る菊屋町 519-1
TEL  : 075-748-1699
営  :7:00~20:00(LO19:30)
休  :無休

※営業情報は2022年10月時点のものとなります
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Writer
土門 蘭
文筆家
1985年広島出身、京都在住。小説・短歌等の文芸作品の執筆、インタビュー記事のライティングやコピーライティングを行う。著書に『100年後あなたもわたしもいない日に』『経営者の孤独。』『戦争と五人の女』『そもそも交換日記』がある。
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