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佐藤 響さん
プロサッカー選手
インタビュー・文:浪花 朱音
撮影:原 祥子
Stories2025.01.09
Vol. 19
食べることが、「食品ロス」を減らす大きな一歩!京都サンガF.C. 佐藤響選手と食へのアプローチを探る
2025.01.09
インタビュー・文:浪花 朱音
撮影:原 祥子
人が生きる上で必要不可欠な「食」。一方で、廃棄される食品・食材が減らない状況や、それによって生じる環境負荷が大きな問題になっています。京都では、そうした「食品ロス」を削減すべく、取り組む人やお店が増えはじめています。今回は、京都市内にある八百屋「西喜商店」と、ミックスジュース専門店「CORNER MIX」の2軒を訪ね、それぞれのお店で実践されている取り組みを伺いました。

同行していただいたのは、京都サンガF.C.の佐藤響選手。自身のInstagramで京野菜を使ったメニューを紹介するなど、チーム屈指の料理上手。アスリートという職業から、食べることを大切にしてるという佐藤選手と一緒に、食を楽しみながらできる環境負荷を低減するアプローチについて探りたいと思います。
目次

新鮮な青果が揃う、市場すぐの八百屋


写真提供:西喜商店

まず訪ねたのは、京都市七本松花屋町で90年以上続く八百屋の「西喜商店」。こぢんまりとした店内には、旬の野菜や果物が並びます。4代目店主の近藤貴馬さんは、食品ロスに並々ならぬ想いを持っている一人。日々野菜と向き合う近藤さんは、どのような取り組みをされているのでしょうか。

 

近藤貴馬さん(以下、近藤さん) ここからすぐ近くに「京都市中央卸売市場」がありまして、京都のレストランやスーパーに並ぶ野菜、果物、魚などの食材すべてが日本中から集まります。西喜商店は、市場の場外売店という立場で、私のひいおじいさんの代から脈々と家族経営してきました。私も毎朝市場に通って、野菜や果物を仕入れて一般のお客さん向けに販売していますし、居酒屋やレストラン、あとは保育園などから注文を受け、納品する仕事もしています。

近藤さん 扱っている商品の特徴としては、毎朝仕入れているので、鮮度が良いこと。本当は産地まで行けると一番いいんですけどね。その次ぐらい新鮮な商品をお渡しできていると思います。京都の市場で面白いのが、京都と滋賀の野菜だけが集まる競り場があるんですよ。そのコーナーでは収穫したてのものが並んでいるので、うちはそこで新鮮な野菜を仕入れていますし、なるべく地元の野菜を中心に扱うようにしています。

佐藤響選手(以下、佐藤選手) 僕は毎日自炊をしていますが、八百屋に行く機会はなかなかないですね。普段はグラウンドから帰宅する途中にあるスーパーで買い物をしています。出身は栃木なんですが、京都に引っ越してからスーパーに行くと、入り口に京野菜コーナーがあるのが新鮮でした。そうした経験は地元ではあまりなかったですね。

近藤さん たしかに。特に京都は市場の仕組み自体もそうですし、地域全体で地元の野菜を食べようという動きがありますね。

佐藤選手 ただ一人暮らしなので、食材の管理が難しいですね。特に野菜は遠征があるとダメになっちゃうことが多いと気づいてからは、冷凍のものも活用しています。

近藤さん たくさん野菜を買うと使いきれなくてダメにしちゃうこともありますよね。冷凍食品を使うのも、いい考えだと思います。

 

食品ロス削減への循環づくり

近藤さん 僕は個人的に食品ロス削減というテーマにものすごく関心を持っています。たとえばコンビニの恵方巻きやクリスマスケーキがたくさん売れ残るニュースを耳にした人もいると思いますし、SDGsの目標にも掲げられているので、みなさんも余剰に食品生産することを減らしていこうという動きは感じていらっしゃると思います。

近藤さん それに加えて、みなさんに全然見えないところでも食品ロスが起こっているってことを伝えたくて、八百屋なりにできることをしています。市場には日本中から毎日何百トンという相当量の野菜が届きますが、来た野菜すべてを市場のなかで売り捌けるかと言うとそうではなくて。買い手がつかなくて行き場がない野菜もたくさんあるんですね。

近藤さん 野菜は農家が一生懸命つくっておられますが、天候によって採れすぎたり、逆に全然採れなかったりと差があって、そこを見込むのがなかなか難しい。いろいろな理由で需要が少なかったりすると、野菜そのものが市場から動かない状態のままってことが結構起こっているんですよ。そうした現状を少しでも減らすためにはどうしたらいいのかを考えて、さまざまな取り組みをしています。


写真提供:西喜商店

近藤さん そのひとつが「軒下青果店」です。野菜って、畑から出荷される前に土に戻せたら、環境負荷自体は少ないと思うんです。なぜなら、野菜は食べられなくても土に返せば肥やしになる。そうすると燃やす必要がないためCO₂は排出されず、環境に与える影響はそれほど大きくないんです。

でも、畑からトラックに乗せて出荷すると、その瞬間からお金もかかっているし、ガソリンを燃やしているので排気ガスも出る。それが食べられずにそのままごみになってしまえば、焼却施設で燃やされるだけなので、またCO₂の排出につながってしまうんですね。

近藤さん それを全部なくすことはかなり難しいんですが、なるべく人間の胃袋に収めることが一番の循環なんです。野菜と消費者の接点をたくさんつくって循環させることができたら、と思い始めたのがこの「軒下青果店」です。どうやって接点を増やすかというと、八百屋以外にも野菜を並べて買ってもらう。まずは雑貨屋で野菜を売る実験を始めたところ、野菜も売れるし、なにより地域住民の方々にものすごく喜ばれたんです。


写真提供:西喜商店

近藤さん スーパーが遠くて困っているお年寄りの方から助かるという声もあり、地域のコミュニティの支えになっているという話もいただきました。今は定期的に3店舗に卸していますが、今後も行き場がなくなっている野菜を買えるスポットを増やしていくことで、環境負荷も減り、なるべく市民の方に食べてもらえる仕組みをつくっていこうと思っています。

佐藤選手 まずそうした取り組みを始められること自体がすごいと思います。発信できる人も少ないと思うので、活動自体がもっともっと広がっていって、食品ロスが少しでもなくなるといいですよね。

近藤さん 最近、料理をしない人も増えていますし、野菜を摂らない人も多くなったと感じます。なので佐藤選手のように、食材やレシピを若い人に向けて発信してもらえるのは嬉しいですね。

近藤さん 実は、昨日も行き先のないナスが届いたんです。規格外ではないのですが、少し傷があるだけでスーパーだとなかなか売りづらくなってしまう。ただ、調理次第でもあるんですね。たとえば焼きナスだったら皮は丸焦げにして剥くので、傷があっても問題ありません。調理ひとつでまったく気にせず食べられるので、そういう意味でも料理ができる人が増えるのは、すごく嬉しいですね。

 

つくる、食べるというアプローチ

佐藤選手 やっぱり同年代の友達は料理をしない人が多いですね。僕もサッカーをしてなかったら、野菜を摂る以前に料理もしていなかったかもしれません。つくるならやっぱり食べ残しをしたくないので、基本的には毎日買い物して、その日のうちに食べ切るようにしています。1週間のサイクルもできていて、野菜ももちろんいっぱい摂りますし、1回のうちに魚と肉の両方を食べます。夜食ではフルーツを切って食べたり。

近藤さん 八百屋からすると、めちゃめちゃ嬉しいですね。料理つながりだと「さらえるキッチン」という取り組みもしているんです。「さらえる」って京都弁で「全部食べる」「食べ切る」という意味なんですが、シェアキッチンを借りて、お店でどうしても出てしまう行き場のなかった野菜を使った即興料理大会をしています。みんなでご飯をつくって食べること自体がすごく楽しくて。その中で、ちょっとでも食品ロスがなくなればいいなと思いますし、食品ロスって目に見えないところでも起こっていることを伝えたくて。佐藤選手は、選手同士で一緒に料理することはありますか?

佐藤選手 なかなかないですね。つくってと言われたことはありますが……。サッカーをしているので、基本的には自分の体に入るものは自分できちんと確かめてから食べたい、という気持ちがあります。誘われなければ基本的に自炊ですし。

近藤さん 本当に食べたいものを選んで、自分で料理して食べる以上のものはないと思います。食材にも気を使っていらっしゃるので、もし次にできることがあるとしたら、直接漁師や農家から食材を買うこと。今はアプリで産地直送もできますし、お気に入りの農家が見つかると楽しいですよね。たくさん届くことも多いので、一人暮らしにはなかなか難しいかもしれないですけど、友だちの分もつくるならおすすめです。僕も「さらえるキッチン」で食材が必要なときは、アプリで青森の漁師からホタテを直接仕入れたり。面白いですよ!

近藤さんとのお話の後、「個人的な買い物していいですか?」と佐藤選手。ほうれん草、梨など迷うことなく手にしながらも、食材を選ぶ視線は真剣そのもの。職業柄、食事を大切にしているという佐藤選手ですが、ふだん当たり前のようにしているつくること、食べることが、一番の循環であるというのは大きな気づきだったよう。今後新たな行動につながっていくかもしれません。

 

楽しみながら食材をレスキュー


写真提供:CORNER MIX

次に訪ねたのが、二条城のそばにあるミックスジュース専門店の「CORNER MIX」。フルーツや緑黄色野菜を使ったベーシックなミックスジュースを提供するのはもちろん、その日の状況によって異なるフードロス野菜やフルーツを使ったメニュー「レスキューミックス」があるのが特徴です。野菜の仕入れは西喜商店と連携されており、京都市内で循環していることが分かります。

ユニークなのが、古いエアロバイクをアップサイクルして独自につくられたマシン「MIX BIKE」があること。電力を一切使わず、ペダルを漕ぐ運動の力でミックスジュースをつくるマシンです。佐藤選手も、「MIX BIKE」を漕いで混ぜる「バナナミックス」づくりを体験しました。

佐藤選手 ペダルが軽いですね。子どもでも簡単に漕げそうです。楽しみながら環境にやさしいことができるのが良いですね。

軽快な足取りで漕ぐこと数分、ミックスジュースの完成です。

ロス食材を活かした「レスキューミックス」のほか、「バナナミックス」などのメニューの甘味料にサステナブルなものを使用していることも、この店の特徴のひとつ。この店で使っているシロップは、甘納豆を砂糖漬けする製造過程でできる、種のエキスが滲み出たもの。廃棄されることが一般的ですが、料理の甘味料やドリンクのガムシロップとして使えるサステナブルな一品です。

今回の体験を通じてさまざまな食の循環を知り、佐藤選手はどう実感されたのでしょうか?

佐藤選手 普段生活している中で、こういった環境問題に向き合った取り組みをされている方々がいることに正直気づきませんでした。今日はそれを知ることができてよかったです。自分の身近なところから改善できることもあると思いますし、そうした動きを発信していけば少しでも人の目に届いたり、前向きに取り組んでもらえることもあると思うので、みんなに知ってもらいたいですね。

取材終了後、自身の日々の生活によってどのくらい CO₂削減に貢献できるかシミュレーションを行った佐藤選手。結果は「リーダー・優等生型」だったそう。これからの変化がますます楽しみですね!

 

おわりに

食べきれなくて残してしまったり、使い切れないまま破棄してしまったり。1食つくるだけでも「こんなに!?」というほど、ごみは出ます。生きる上で食は不可欠だからこそ、その必要性とどうしてもかかってしまう環境負荷の間でジレンマを感じることも。

そんな中、西喜商店・近藤さんの「なるべく人間の胃袋に収めていくのが一番いい循環」という一言は目から鱗でした。食品ロスを減らすための原点でありながら、実は見落とされていることのように思います。

では、食品ロス削減へとつなげる「食べる、料理をつくる」を続けるにはどうしたら? バイクを漕いでミックスジュースをつくる「CORNER MIX」での体験を通して、楽しみながら実践するというアプローチにヒントがあるのではという気づきがありました。

食品ロス削減というとつい難しく気構えてしまいますが、実はとっても身近なアクションがたくさんあります。佐藤選手もおっしゃっていましたが、身近なところで感じることが、大きな第一歩! 農家や小売専門店で直接食材を買ってみる、地域の食材を意識してみる、だれかと食事をつくり食卓を囲む、ゲーム感覚で料理をつくってみるなど、楽しみながらできる環境にやさしい行動を考えていきたいです。

佐藤選手、同行いただきありがとうございました!

 

取材協力:京都サンガF.C.

Profile
佐藤 響
プロサッカー選手

2000年生まれ、栃木県出身。水戸啓明高校、流通経済大学を経て2022年シーズンよりサガン鳥栖に加入。同年途中に京都サンガF.C.に期限付移籍し、翌2023年に完全移籍。スピードを生かしたドリブルと豊富な運動量を兼ね備えたサイドアタッカー。京野菜を使ったカラダに良い一品料理を紹介するSNSアカウント『キョウのごはん🍚(@kyo_no_gohan.44)』を運営している。
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京都サンガF.C.
プロサッカークラブ

京都紫郊(紫光)クラブとして1922年に創部。京都パープルサンガとして1996年よりJリーグに参戦し、2007年に現在の京都サンガF.C.と改称。サンガ(SANGA)とは、ホームタウンで歴史ある寺院を多く擁す古都・京都とのつながりの深い仏教用語。サンスクリット語で「仲間・群れ」を意味する。F.C.(エフ・シー)には、フットボール(Football)を通じ、ファン(Fun)、ファミリー(Family)と共に未来(Future)を創るクラブ(Club)でありつづけるという願いが込められている。
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西喜商店
京都の八百屋

住所 :京都府京都市下京区朱雀分木町市有地
営  :9:30~17:30
休  :水曜日、日曜日、祝日定休

※営業情報は2024年12月時点のものとなります
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CORNER MIX
ミックスジュース専門店

住所 :京都市上京区主税町950番地 1F
TEL  :075-278-8647
営  :8:00〜15:00
休  :火曜日・水曜日定休

※営業情報は2024年9月時点のものとなります
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Writer
浪花 朱音
編集者・ライター
1992年鳥取県生まれ。大学卒業後、編集プロダクションで紙媒体を主に編集に携わった後、フリーランスとして独立。2017年より約3年ポーランドに滞在。現在は関西圏を中心に、ジャンルを問わずさまざまな媒体に関わる。

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