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エバンズ亜莉沙さん
エシカルコーディネーター
小森 優美さん
ファッションデザイナー/株式会社森を織る代表取締役
インタビュー・文:小倉 ちあき
撮影:anzai kana
Stories2025.10.24
Vol. 25
「一枚の布」を辿ると見えてきた。京都で紡がれる、自然と共にある選択
2025.10.24
インタビュー・文:小倉 ちあき
撮影:anzai kana
京都で服をつくることは、自然や人とのつながりを紡ぐこと。

「森を織る」主宰のデザイナー・小森優美さんとエシカルコーディネーター・エバンズ亜莉沙さんは、それぞれの原体験を軸に、環境や社会に配慮したものづくりを続けています。二人が協働して製作したドキュメンタリー映画『森を織る。』、そして京都での暮らしから見えてきたのは、「やさしい未来」とは遠い理想ではなく、日常の選択の積み重ねの中に息づいているということでした。
目次

「エシカル」は、暮らしの選び方からはじまる

−−まずは、お二人の活動についてお伺いできますか。

小森優美さん(以下、小森さん) 株式会社森を織るの代表取締役兼デザイナーをしています。Liv:ra(リブラ)という草木染めのシルクランジェリーブランドで、東京を拠点に活動してきました。2021年に京都へ移住し、蚕を育て桑を植えることから始め、職人さんや生産者さんとのつながりを広げてきました。2025年には日本の絹織物のファッションブランドMORI WO ORUを立ち上げました。さらに京都・西陣に「MORI WO ORU Design Studio」を開設し、自然と人の生態系を共に育むブランドとして、染めとデザインを行っています。また「MORI WO ORU Design Studio」では、実際に丹後ちりめんをはじめとするシルクの工芸テキスタイルを使って、自由に染色デザインを楽しめる、世界に一つだけの草木染め服づくりのワークショップも体験できます。

エバンズ亜莉沙さん(以下、エバンズさん) エシカルコーディネーターとして活動しています。10年ほど「人・地球にやさしいライフスタイル」をテーマに、テレビや雑誌、イベントなどでの発信やディレクションを続け、現在は一般社団法人エシカル協会にも所属しています。

――お二人とも「環境」や「エシカル」を軸に活動されていますが、改めて「エシカル」について教えてください。

エバンズさん エシカルには、英語で倫理的や道徳的という意味があります。エシカル協会では、「法的な縛りはないけれども、多くの人たちが正しいと思うことで、人間が本来持つ良心から発生した社会的な規範」と考えています。環境や社会、政治や人権など、扱うテーマは幅広いです。

わかりやすくすると、私自身は「自分の行動が、周りにどんな影響を与えるのかを意識すること」だと捉えています。環境問題や社会課題と聞くと大きな話に感じますが、実際は身近な選択の積み重ね。買い物の際、少しでも人や環境に優しいものを選ぶだけでも、立派なエシカルな行動なんです。

――お二人がエシカルにまつわる活動を始めるに至った背景には、何かきっかけがあったのでしょうか。

エバンズさん 学生時代、米オレゴン州で環境科学を学んでいた頃、先生から「日常の選択が地球の裏側への森林破壊や児童労働につながっている」と教えられ衝撃を受けました。同時に「選ぶものを変えれば未来を変えられる」と希望を持ち、肉食を減らしたり、フェアトレード商品を選ぶようになったんです。

その後、海外でのボランティア活動や国際NGOでのインターン、地球一周の旅などを通して、「ネットや教科書の情報だけでなく、自分の目で世界を見て感じること」の大切さに気付かされました。これらの体験を経た後に、自分ができることは何かを改めて考えていたところ、エシカル協会を通して「エシカル」という言葉に出会いました。私の伝えたいことはこの言葉に凝縮されているかもしれないと感じ、その価値観や考え方を伝える人として、今の肩書きでの活動を始めたんです。

小森さん 私は海が原点です。ダイビングが趣味だったのですが、昨年までいたサンゴが次の年には死んでしまっている、という光景を目の当たりにしました。そんな中で、ファッションに使用される染料が河川の約20%を汚染していると知り、自分が携わる業界も影響していることに衝撃を受けました。

何とかしたい、という思いはありましたが、当時のオーガニック服は生成りや無地が多かったんですよね。私は派手な色が好きなので、「海を汚さずにカラフルを表現できる方法」を探し、出会ったのが草木染めでした。

インターネットで見つけた京都の川端商店の「新万葉染め」に魅かれて直談判。試行錯誤を重ねました。鮮やかな色を出しつつ水を汚さない技術は、自分らしい表現を叶えながらも自然や環境にも配慮できるという自分のコンセプトと直結していると感じました。

――原点には“体験からの気づき”があるんですね。

小森さん はい。もうひとつ、自分への大きな気づきのきっかけをくれたのが「蚕」ですね。ちょうどコロナ禍の時、趣味のように蚕を育てていたんです。その後京都に移り住んでからはご縁が広がり、蚕から糸を紡ぐ工場や丹後の織物産地に足を運ぶようになりました。原料から布、そして服になる道のりを辿るうちに、「ああ、ものづくりって単なるプロダクトではなく、土地の歴史や文化の中に根付いているんだ」と実感したんです。

エバンズさん 小森さんのそういう姿勢がすごく素敵だなと思っていて。自分で蚕を育てて、実際に産地を歩いてみる、それって誰もができることではないですし、でもその目線があるからこそ、“エシカル”の意味がすごく具体的に伝わるんですよね。

小森さん 自然の色が布に染まっていく瞬間の美しさや、生命の循環を感じる手ざわり。私自身も草木染めの技法を習い、自分の手で染めた時に癒された感覚がありました。この「MORI WO ORU Design Studio」でも、皆さんにも“つくる”という体験を通して、自分と自然がつながる感覚を味わってもらいたいと思っています。

Design Studioではお客様が自分で染められるワークショップも開かれています。今回はバンダナ染を体験させていただきました。

染色には京都・川端商店の 2000年の技術を今に受け継ぐ「新万葉染め」を使用されています。染料を分子レベルまで微粉砕することで、少量でも濃く鮮やかに染められる古代と現代の技術が融合した技術です。

基本は約6種類の染料。赤・青・黄を混ぜ合わせ、焙煎の方法も工夫することで、無数の色合いを生み出しています。

マリーゴールドや茜などの花、さらには南米産コチニール(サボテンにつくカイガラムシ)といった天然染料を使うことで、鮮やかで楽しい色を表現できます。

「今日は雨だから緑が強めに出た」など、染め上がりは気候などの影響も受けるとのこと。自然の条件がそのまま色に映し出される染技術だそうです。

 

映画『森を織る。』森と糸と、人の営みをつなぐ物語

――続いてはドキュメンタリー映画『森を織る。』についてお聞かせください。

小森さん この映画は、日本の絹織物文化と、それを育んできた自然と人との壮大な関わりを描いたドキュメンタリーです。舞台は日本中の絹織物にまつわる産地。豊かな風土の中で営まれてきた文化と、養蚕農家や製糸工場、織元の職人さんなど持続可能な生き方を模索する人々の姿を追っています。原点を追いかける旅そのものが学びとなって、ドキュメンタリー映画に仕上がった感じです。

でも実を言うと、最初は本当に小さな企画で、2~3分程度の短いブランド映像を作るつもりでした。

映像作家の高嶋綾也さんに依頼したところ共感してくださり、打ち合わせが進むにつれ、「これは短編には収まりきらない」と話が膨らんでいき、2~3分の予定が最終的に64分のドキュメンタリー作品になりました(笑)。

提供:株式会社森を織る

――お二人が結びついたのはどうして?

エバンズさん 10年前に東京で初めて出会いました。その後、私が京都に移り住んだ頃に再びご縁がつながった感じですね。

小森さん 流れの中でエバンズさんにディレクター・監督という肩書きで参加していただくことになりました。

エバンズさん 監督という肩書きは実はとても恐れ多く感じていて、この作品は本当に「みんなでつくった作品」だと感じています。一着の服には蚕の生命や水や土、職人さんの時間、数えきれない生命の積み重ねが宿っている。職人さんや農家さん、自然……全員が関わり合いながら一枚の布ができるように、映画もまた“共同制作”でした。生命の重みを包み隠さず描いた作品になったと思います。

――なるほど、予想外の広がりから生まれたんですね。映画制作を通して、伝えたかったことは何でしょうか?

小森さん 「すべての服は生命でできている」ということです。蚕の生命もそうですが、繭を茹でる過程で失われる生命も含め、その重さを包み隠さず描くことが重要だと思いました。表面的な美しさだけでなく、生命の積み重ねに真正面から向き合わざるを得なかったのは、自分にとって大きな学びでもありました。

エバンズさん 私も現場で、人の時間やそこにある技一つひとつが“生命”そのものだと実感しました。織物を織る職人さんの眼差しや、代々受け継がれてきた歴史の重みはすべて生命の連なりです。養蚕農家は全国で約130軒、製糸工場も7軒しか残らないという危機感がある一方で、「それでも続けたい」と語る人々の強い思いに心を打たれました。大変だけど、だからこそ自分がここで諦めずに、残さなければならないという使命感を持っている姿は、本当に美しく、撮影中何度も心を打たれました。

小森さん 撮影では職人さんたちと直接話す機会も多く、個性や感性に触れられたのも貴重な経験でした。桑や水など自然環境に支えられて成り立つ織物は、何千年も積み重なってきた生命の連鎖そのもの。服は一着であっても、地球全体と無数の生命が関わり合って生まれていることを改めて実感しました。

エバンズさん 映画『森を織る。』は、人と自然が共存してきた日本のものづくりの象徴でもあり、その姿を未来へ手渡すための作品だと思っています。

提供:株式会社森を織る

――映画に映るのは、自然と共にある文化や人の営みなのですね。お二人がその現場に足を運び、暮らしの中で実感してきたことが映像に反映されているように思います。

小森さん 私自身、蚕を育てることから始めて、京都のあちこちを巡りながら土地について学んできました。絹織物の文化は人々の暮らしを通して育まれてきたものなので、自分自身の暮らしを見直すきっかけをいただいたと感じています。

 

京都で暮らす日々が育ててくれる視点

――改めて、お二人にとっての「京都暮らし」について伺いたいです。

小森さん 2021年夏から京都に移住しましたが、京都は文化度が深く、人が集まる場所です。彼らや彼女らとの出会いによって、日々の暮らしや活動も変化してきたと感じます。

エバンズさん 都会にいると、どうしても“ものづくり”と“自然”の間に距離を感じていました。周りでも京都に移住した知り合いが多く、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さんなどもみんな口を揃えて『京都は最高だよ!』と言っておられて(笑)。

そんな中で京都を訪れる機会があり、伝統工芸や地域の方々との交流を通して、暮らしと環境がとても近くにあることに気づいたんです。その実感に惹かれるように、自然と移住を決めました。

――京都で実際に活動してみて、面白さや逆に難しさを感じることはありますか?

エバンズさん 観光地ではなく「生活の街」としての京都に魅力を感じました。思春期の頃過ごしていた、オレゴン州ポートランドに似ていて、自然と共存する文化やローカルなお店が多いのも心地よいです。

東京ではエシカルが“消費されている感覚”になりがちでしたが、京都では言葉を使わなくても自然と実践されている。食や工芸、自然との距離が近く、プラントベースの食生活も自然にできる。京都は呼吸するようにエシカルが暮らしに溶け込んでいる場所だと感じます。

小森さん 私にとっての面白さは、京都が“ハブ”になること。京丹後の織、岡谷の糸、秩父の養蚕など、私が必要とする日本各地の産地にアクセスしやすく、海外のお客さまも京都に集まってくれるので、伝えたいことをダイレクトに届けやすいと感じています。職人さんや現場も近く、繋がりやすいのも魅力です。

まさに今、西陣にスタジオを開きましたが、商店街の方々も温かく、地域に馴染む過程を楽しんでいます。

エバンズさん 毎週大原の朝市に行きますが、新鮮な京野菜を手に取る瞬間、生命の循環を体感できます。こうした日常の積み重ねも京都の魅力だと感じます。

 

「やさしい未来」を、どう手渡していくか

――最後の質問です。エシカルやサステナブルという言葉にとらわれずに、「こんな視点があればもっと暮らしやすくなるのでは」と思うことはありますか?

小森さん 映画でも触れていますが、「生命が全部つながっている」という感覚を取り戻すことが大切だと思います。服づくりも食べ物も誰かや何かの営みに支えられている。太陽や水がなければ成り立たないし、私たちは生態系の中で生きていることを忘れがちです。でも本当はすべてが結びついていて、その感覚を持つだけで、誰かを傷つけたり地球を壊す行為は自然とできなくなるはず。そうやって生きられれば、自分も幸せで、周りも傷つけずに済むのではと思います。

エバンズさん 私も小森さんに共感します。まずは「身につけるものや食べ物がどこから来ているか」を知ることが大切です。自然界には“ゴミ”という概念がなく、すべてが循環の中にある。人間もその一部で、支え合いながら生きている存在なんですよね。その感覚に気づいた時、人は「自分は一人じゃない」と思えるし、今の時代に多い“生きづらさ”も和らぐのではないでしょうか。

すべての存在には役割があって、支えられている。その循環を意識できることこそが、本当の意味でのサステナブルなのだと思います。だから「地球環境のため」だけでなく、「自分自身を大事にする視点」から始めることが、続けやすいと思います。

 

おわりに

小さな選択の積み重ねが未来を形づくる。服を選ぶことも、食べることも、敬意を払うこともすべて“やさしい未来”につながっている。小森さんとエバンズさんが語るエシカルとは、特別な概念ではなく日々の暮らしに根ざした感覚でした。

生命のつながりを思い出すこと、違いを尊重し合うこと。そんな視点を持てた時、私たちはきっともっと生きやすくなるのかもしれません。あなたにとっての「やさしい暮らし」とは、どんな風景でしょうか。お二人の言葉をヒントに、改めて自分自身に問いかけてみたくなります。

Profile
エバンズ亜莉沙
エシカルコーディネーター

第二の故郷・米国オレゴンでの生活と地球一周の旅を経て、現在の肩書きで2015年より人と地球にやさしい暮らしをライフワークに。イベントディレクションやブランドPR、MCなど多岐にわたり活動。日本国内のエシカルな取り組みを取材し世界に発信する番組、 NHK WORLD Japan「Ethical Every Day」MC。リジェネラティブなファッションのあり方を考えるドキュメンタリー映画『森を織る。』では監督・主演を務める。
ELLEスタイルインサイダー, Coachtopia コミュニティメンバー 他
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小森 優美
ファッションデザイナー/株式会社森を織る代表取締役

2013年より草木染めシルクランジェリーブランド"Liv:ra(リブラ)”デザイナーとして活動する。
2024年春からは、日本の絹織物文化を通して人と自然の生命のつながりを再生するファッション”MORI WO ORU(森を織る)”をスタート。日本の絹織物産業を通して生命のつながりの美しさを伝えるドキュメンタリー映画『森を織る。』制作の他、絹織物の美しい文化が残る日本各地の産地を巡り、人の心を再生するTransformative Tourism(変容の旅)や、染色工房”MORI WO ORU Design Studio”を企画運営している。
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MORI WO ORU Design Studio/SHOP/OFFICE
デザインスタジオ

住所 :京都府京都市上京区三軒町48-8
営  :火〜土 9:00~18:00 ※要予約
休  :日、月

※営業情報は2025年10月時点のものとなります
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Writer
小倉 ちあき
ライター
地域・アート・暮らしの領域で主に活動。インタビュー・作品執筆・編集など。企画・取材に合わせて、各地を移動する。情報と知識の境界線を越えて、有機的につなぎあわせる編集術を日々模索する。
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