撮影:佐々木 明日華
「人生最後の買い物」をしよう。アメリカ人エンジニアがリペアの可能性を探った1か月の京都滞在
撮影:佐々木 明日華
「修理する権利」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。壊れたら捨てるのではなく、直して使い続ける権利。欧米を中心に広がるこのムーブメントは、単なる節約術ではなく、環境問題や消費者の保護に関わる重要なテーマです。
かつて8年間京都に住み、現在はアメリカで機械エンジニアとして活動するコナー・カークさん。彼がこの夏、「***(アスタリスク)in Residence Kyoto」に参加するために再び京都へ戻ってきました。
「*** in Residence Kyoto」は、世界中から訪れる多様な才能を持つクリエイターと、京都で暮らす人々が、一定期間をともに過ごし、学び合い、未来へつながる関係を育む“創造的滞在”のためのレジデンスプロジェクトです。
コナーさんの滞在中の活動テーマは「リペア(修理)」。アメリカの「修理する権利」運動、フランスの「修理可能性スコア」、そして日本の「もったいない」精神。それぞれの視点を行き来しながら見えてきた、日本らしいリペアの未来とは?
正解よりもプロセスを。京都の不便さが育てた考え方

−−コナーさんは現在、機械エンジニアとして活動されていますが、最初の来日は「木版画」を学ぶためだったそうですね。
もともと大学でアートの歴史の授業の中で浮世絵に出会い、作ってみたいと強く思うようになりました。ネットで調べてミシガン出身のスタイナー先生という方に連絡を取ったら、「とりあえず京都においでよ」と言われて。最初の3か月は彼のアトリエで木版画の技術を学びました。
当時の暮らしは、正直に言えば、非常に不便なものでした。古い寮で、お風呂もシャワーもなく、冷暖房もない。夏は汗だくになり、冬は寒さに震える。最初は慣れなくて本当に苦しかったです。シャワーがないので毎日銭湯に通う生活。でも、徐々にその自然に近い暮らしが心地良いものになっていきました。

−−今のエンジニアとしての活動に、その当時の経験は生きていますか?
「忍耐力」を学びましたね。僕はもともと、課題に対してすぐに答えを出したいタイプなんです。自分の中で「正解」や「理想的な進め方」がパッと見えてしまうと、すぐにそれを口に出して推し進めようとしてしまう。でも、京都での生活や、いろいろな人との仕事を通じて、それを一度とどめることを覚えました。
物事が自然に展開していくのを、じっと見守る。目標達成だけでなく、そこに至るプロセスを大切にする日本の仕事の仕方に触れたことは、エンジニアとしての今の自分にも大きな影響を与えています。
リペアへの関心は「直せないランプ」への怒りがきっかけ

−−そこから機械エンジニアへ転身し、なぜ「リペア」に関心を持つようになったのですか?
2019年にアメリカに戻り、新しいキャリアとして機械エンジニアの道を選びました。
リペアに関心を持つようになったのは、ある個人的な「怒り」の体験がきっかけです。娘の部屋用にデスクランプを買った時のことです。そのランプを2年ほど使ったら電球が切れました。交換しようとすると、その電球は専用規格で、カスタマーサポートに連絡したら「生産終了していて入手できない」と言われたんです。

−−ランプ自体は壊れていないのに、電球がないだけで使えなくなってしまったと。
そう、たった2年でゴミになってしまった。これは「計画的陳腐化」、つまりメーカーが買い替えを促すために、製品が一定期間で使えなくなるように設計すること、そのものです。消費者が直して使う権利がないがしろにされている状況に、本当に腹が立ちました。この経験から、買い物の際にもっと慎重に選ぶようになり、「修理しやすさ」について深く考えるようになったんです。
世界のリペア事情。対立ではなく共創が必要な日本
写真提供:*** in Residence Kyoto
−−「*** in Residence Kyoto」で京都に滞在した1か月のあいだ、コナーさんは日本のリペア文化のリサーチを行われました。欧米と日本、それぞれの動きにはどのような違いがありますか?
各国のゴールは同じ方向性で「消費者保護」と「環境問題」ですが、アプローチが全く異なります。
大まかに言うとアメリカは「ボトムアップ」のアプローチです。「iFixit」のような企業やコミュニティが中心となり、「自分たちで直す権利がある」と主張し、メーカーに対して修理しやすさを求めて戦うスタイルです。一方、ヨーロッパ、特にフランスは「トップダウン」のアプローチです。法律で規制し、2021年からは製品の「修理可能性スコア」の表示を一部の製品カテゴリーで義務化しました。近年は、製品によっては耐久性指標というものへ発展しています。

−−フランスでは、製品の価格の横にスコアが表示されているそうですね。
消費者は購入時に「この製品は修理しやすいか」をスコアで判断できます。これにより、消費者は修理しやすい製品を選び、メーカーも選ばれるために修理しやすい設計をするようになる。そうした未来を作るためのスコアです。

−−では、日本ではどのようなアプローチが有効なのでしょうか?
滞在中のリサーチや議論を通じて、私自身の実感・仮説として感じたのは、アメリカのような消費者と企業の対立型でも、ヨーロッパのような法律主導型でもない、「第三の道」が日本には必要だということです。日本では、メーカーと戦うのではなく、メーカーを応援しながら一緒に修理しやすい製品を考えていくアプローチが合っていると思います。
実はアメリカでも良い兆しがあります。PCメーカーのLenovoがiFixitにコンサルティングを依頼し、共同開発で修理しやすいノートPCを作った事例があります。このように、第三者がメーカーにアドバイスをし、ポジティブな付加価値として「修理しやすさ」を消費者へ打ち出していく。日本で普及した「エコマーク」も、義務ではなく、企業のマーケティング的な価値や消費者への情報提供、第三者認証として機能しましたよね。それと同じように、メーカーにとっても新しい売り方、プラスの価値になるような仕組みが、日本には適しているのではないでしょうか。
日本では安心・安全の壁をどう越えるかが課題
写真提供:*** in Residence Kyoto
−−日本には「もったいない」という言葉や「金継ぎ」といったものを大切にする文化が根付いています。土壌としてはリペアと相性が良いように思えますがいかがでしょうか?
そうですね。例えば今回「*** in Residence Kyoto」で滞在した「ひのでやエコライフ研究所」のレジデンスオーナーであり、一緒にリペアの取り組みを進めた大関さんという方は、自分の服に穴が開くと、あえて違う色の布でパッチを作ってカラフルにリメイクされています。破れたら捨てるのではなく、愛着を持って直し続ける。かつての京都には、着物の端切れを再利用したり、金継ぎで器を直したりと、生活の中に当たり前に修理がありました。その精神は今も残っていると思います。
有限会社ひのでやエコライフ研究所で開催された「リペアカフェ」の様子
しかし、現代の実践においては大きなハードルもあります。一つは「法律」です。例えば日本では、デバイスを分解・改造した状態で実際に電波を発信させて使用することは、電波法により厳しく制限されています。
一方で、電波を発信させない前提で機器の外装を開けて内部を観察することや、修理の工程を検証する行為そのものは、法に触れるものではありません。もちろん安全性の確保は不可欠ですが、現状の法制度が結果として修理の機会を狭めてしまっている側面は否めません。オランダの「Fairphone」のような修理しやすさを追求したスマホも、日本国内で電波法に基づく認証(技適)を維持したまま流通・サポートさせるための要件が、市場参入の大きな壁となっています。

−−今回の滞在中、実際にデバイスを分解してスコアリングするワークショップを行われていましたね。
はい。スマートフォンやタブレットを分解して、フランスの基準に沿ってシートに入力し、修理可能性スコアを算出するワークショップを行いました。バッテリー交換に何ステップ必要か、道具は特殊か、などを一つひとつ検証していきます。
写真提供:*** in Residence Kyoto
そこで感じたのは、参加者の多くが持っている「恐怖心」です。「本当に開けていいの?」「爆発しない?」といった不安の声が多く聞かれました。初めてスマホの中身を見たという方も多かったですね。実際に分解してみると、想像以上に簡単だと気づいた人がほとんどでした。日本でリペア文化を根付かせるには、「安心・安全」の担保が重要です。分解しても大丈夫だという正しい知識や教育、そして時代に合わせた法律のアップデートが必要だと感じています。
買い物のたびに「これが人生最後の買い物なら?」と問う

−−コナーさんご自身の消費に対する考え方も、リペアへの関心を通じて変化しましたか?
ここ数年で、「これからの買い物は、できるだけ『人生最後の買い物』にしたい」と考えるようになりました。例えば、最近買ったキーボードは220ドルほどしましたが、制御するソフトウェアがオープンソースで、たとえメーカーがなくなっても使い続けられるものを選びました。アルミ製の外装ですごく重くて、ビルの上から落としても壊れないんじゃないかというくらい頑丈です(笑)。部品も汎用性が高い。「これで最後だ、一生使うんだ」と思えるものを選び、手入れして長く使うことに、プライドや満足感を感じるようになったんです。

−−壊れたら買い替えるのではなく、直しながら一生付き合っていくと。
パソコンやスマホのように技術進化が速いものでは難しいかもしれませんが、一部のモノでも「人生最後」という視点で選んでみる。そして、購入する前に「この製品と自分はどんな付き合いになるのか」を想像してみる。そうすることで、ものとの関係性がより豊かになる気がします。
「暮らすように旅する」から見えてくるもの

−−最後に、今回の京都滞在について教えてください。観光ではなく、創造する1か月を京都で暮らすというスタイルはいかがでしたか?
僕にとって京都は第二の故郷です。8年住んでいても、まだ1%も知らないと感じるほど、この街は奥深い。今回のように「*** in Residence Kyoto」で1か月滞在することで、観光地ではない、地元の人が集う隠れた名店や、本当の暮らしのリズムが見えてきました。例えば、一見ただのコンビニなのに、奥の扉を開けると秘密基地のような立ち飲み屋が広がっている場所とか。そういう、100年住んでいないと分からないようなディープな場所が京都にはたくさんあります。

−−オーバーツーリズムが課題となるなか、新しい滞在の形と言えそうですね。
短期間で消費する観光ではなく、長く滞在して地域と深く関わる。リモートワークが普及すれば、こうした滞在はもっと一般的になるはずです。京都でただ「消費」するのではなく、何かを「創造」したり、修理の文化について議論したりする。そんな余白のある時間が、自分自身をリフレッシュさせ、また新しい視点を与えてくれました。
問い直す、ものとの距離。消費の先にある「リペア」という営み

「これは、人生最後の買い物になるだろうか?」コナーさんのその問いは、大量消費のスピードに慣れてしまった私たちの足を引き止めてくれます。壊れたら捨てるのではなく、直して使い続ける。それは単なる節約ではなく、ものと自分とのあいだに固有の物語を紡ぐ、豊かな営みなのかもしれません。
古くからの「もったいない」の精神と、最先端のエンジニアリングの視点。その二つが交わるコナーさんの京都での1か月は、対立ではなく「共創」による、日本らしいリペアの未来を予感させるものでした。次に何かを手に取るとき、一度立ち止まって問いかけてみてください。「これを、人生最後の相棒にできるだろうか」と。その小さな問いの積み重ねが、やがて社会を優しく変えていくはずです。
取材協力:sōma
機械エンジニア、起業家、ビジュアルアーティスト
2011年にサバンナ芸術工科大学(SCAD)を卒業後、同年に京都へ移住、8年間滞在。新しいメイカースペース「Kyoto Makers Garage(KMG)」の立ち上げと、帰国する2019年まで運営に尽力。帰国後は、CNC加工、ワイヤ放電加工、積層造形などの先端製造技術や、コンベアーや仕分けの自動化システム、鉄鋼業界など、さまざまな分野で機械エンジニアとして活動中。2025年には、製鋼炉における節水型冷却技術に関する米国特許取得において、発明者の一人として関わった。現在は、妻と3人の娘と共に、ジョージア州アトランタに在住。
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ライター
現在は、22歳年上の夫と京都で2人暮らしをしながら、フリーランスのエッセイスト、取材ライターとして活動。 このライターの記事一覧へ >
