撮影:原 祥子
「我慢」じゃないヴィーガンとは?京都で見つけた、食と未来を豊かにする選択肢
撮影:原 祥子
ヴィーガンとは、肉や魚介類、乳製品、卵、はちみつなど動物性の食品を避ける食生活のことです。さらに、革や毛皮、ウール、動物実験を経た化粧品といった動物由来のものをできるだけ使わないといった、暮らし方全体を指すこともあります。環境への意識や動物への思いやり、健康への関心など、きっかけは人それぞれです。
今回、私たちは京都でヴィーガンのイメージを変える人物に出会いました。KYOTOVEGAN代表の玉木千佐代さんは、ヴィーガンを「こんなに新しくて、おいしいものがあるんだ!」という発見と喜びに満ちた、自由な生き方だと語ります。なぜ、ここ京都でヴィーガンは前向きな選択肢として広がり、未来を変える可能性を秘めているのでしょうか。
偶然の出会いからはじまったヴィーガン活動と、京都との親和性
−−まずは玉木さんのご活動について、教えてください。
2016年頃にヴィーガンについて知り、その後京都のヴィーガンのお店のマップ作りや、ヴィーガンに関するコンサルティングをしています。現在は京都市と一緒に、どうしたら2050年までにCO₂排出量を正味ゼロにできるかを考えています。
──ヴィーガンの活動をはじめられたきっかけは、何でしたか?
本当に偶然の出会いからなんです。ある日信号待ちをしていたら、外国人観光客の家族連れに道を尋ねられました。「私達はヴィーガンなのだけど、食べるところがないので紹介してほしい」と。
その時は私もヴィーガンという言葉を知らなかったので、慌てて調べてみると、お肉や魚、卵に乳製品など動物由来のものを摂らないライフスタイルだとわかりました。それで、近くの居酒屋さんに案内して冷奴や枝豆、スライストマトを注文してあげたところ、本当に喜んでくださったんです。そんなに喜んでいただけるなら、もっと調べておこうと思ったのがきっかけでした。元々世話焼きな性格なことも影響しています(笑)
それからいろいろなお店を調べていくうちにヴィーガンマップができあがって、お店の人にお話を聞きながらヴィーガンについて勉強させてもらい、今に至ります。
提供:合同会社KYOTOVEGAN
──そんな偶然から!京都でヴィーガンの活動を始められて、なにか発見はありましたか?
実は京都は、東京に次いで2番目にヴィーガンのお店が多い街です。京都はコンパクトシティですから、密度でいえば「ヴィーガンの人が日本一生活しやすい街」って言われているんですよ。
京都には老舗のお店や会社も多くありますね。5代目、6代目として事業を受け継いできた方が、次の世代にどうバトンを渡すかを考える際、普段から環境問題や地球の未来について想いを巡らせる方が多いように感じます。そのなかにヴィーガンという選択肢を採用することで、未来への姿勢がより強固になりますから、ヴィーガンは京都の街にもとても合うものではないかなと感じています。
──ヴィーガンに詳しくない人間からすると、なかなかヴィーガンのライフスタイルと環境問題が直結しないのですが、どのように繋がっているのでしょうか?
何を食べるかという選択は、環境ともつながっています。例えば人間が食べるためには畜産動物を飼育しますよね。実は畜産動物の牛のげっぷからでるCO₂やメタンガスの総量は、世界中の交通機関、飛行機も船も車も全部ひっくるめた量よりも多い、もしくは同等と言われています。だからこそ、人間が食べる動物を減らすこともひとつの選択肢であり、環境負荷を和らげる手段になり得ます。
また、動物の飼料を作るために山が伐採されたり、平原が焼かれたりするケースもあります。地球の緑がなくなることにも実は繋がっているんです。
ヴィーガンは「我慢」ではなく「楽しい発見」
──玉木さんご自身もヴィーガンのライフスタイルを実践されているとのことですが、実際ヴィーガンの生活ってどんな感じですか?
ヴィーガンってすごく先進的で、楽しいものなんですよ。例えば今大阪万博が開催されていますが、ヴィーガンって「フードテック(食分野に関わる最先端の技術のこと)」のカテゴリに入っているんです。バターやチーズ、ソフトクリームにもヴィーガンのものがあって。最新の研究をもとに開発されている食事を学んだり、食べるというのは面白いですよ。
実は、私自身ヴィーガンを知ってからすぐ1年くらいは「ヴィーガンこそが正義」って思ってたんです。ヴィーガンってすごくいいものなのに、どうしてみんな動物性のものを摂取するのだろう?と疑問でした。
でも7〜8年取り組んでいるうちに、気持ちや環境の変化があって、ヴィーガンに対する認識はずいぶん変わりました。大切なのは自分が摂るものの背景を知ったり、思いを馳せたりすることであって、その上で動物性のものを摂る日もあれば摂らない日もあってもいいんです。選択の仕方は人によってさまざまでいいと思うようになりました。ただ、その選択肢を増やすことは重要だと感じています。
──ヴィーガンって、とても厳格なものなのだと思っていました。知ることや、背景を思うことが大切だ、というのは共感できます。そのきっかけを、ヴィーガンに興味のない人にまで伝えるにはどんなことが必要だと思われますか?
まずは、ヴィーガンがそんなに特別じゃないっていうことを知っていただきたいですね。例えば、マイボトルを持つ理由って、日本だと「もったいないから」という経済的な理由を挙げる方が多いんです。でも、ヨーロッパだと「脱炭素に繋がるから」と環境問題に自然と目が向いている方が多い。マイボトルひとつをとっても、見方が違うんです。そんな見方を小さい時から養って、当たり前にしていくことが必要だと考えています。
──KYOTOVEGANでも若い世代に対してセミナーを行うなど発信をされていますね。これから京都ではヴィーガンはどんなふうに広がっていくでしょうか?
今後もヴィーガンという選択ができる場が増え続け、次第に当たり前になっていくのではと思います。今作成しているヴィーガンマップでも400以上の店舗が京都でヴィーガンメニューを提供しています。それに、実は和菓子ってヴィーガンなんですよね。和菓子って動物性のものを使っていないものがほとんどなんです。洋菓子ももちろんおいしいけれど、選択肢のひとつとして、ヴィーガンとしての和菓子はどうですか?という提案で和菓子業界を盛り上げることもできるのではないかと考えています。
京都の文化をヴィーガンという見方で広げていくことは、昔から伝統的に続けていたことの再発見にもなるはずです。京都でのヴィーガンって、可能性がものすごくあると考えています。
京都の日常に溶け込むヴィーガンのお店
玉木さんにお話を伺った後で、ヴィーガンの取り組みをしているお店を2軒紹介していただき、実際に足を運んでみました。お好み焼き屋さんと靴屋さん。どちらも京都の生活に根ざした身近なお店です。
アレルギーを持つ子どもへの思いやりから生まれたヴィーガンお好み焼き
まず訪れたのは、京都・円町でヴィーガンお好み焼きをはじめ、生麩田楽やこんにゃくステーキなどのヴィーガンメニューを提供している「お好み焼き 創作鉄板 雅」。
ヴィーガンお好み焼きにはキャベツ、山芋、昆布だし、紅しょうが、オオバコパウダー、刻みたくあん、青のり、天かす、小麦粉もしくは米粉が入っており、植物性のみで作ったソースを使用しています。生地は驚くほどふわふわで、口の中でとろけるような食感です。動物性の食材がなくても、旨味と満足感がしっかりとあります。
ヴィーガンメニュー開発のきっかけは、知り合いのお子さんがアレルギーで、通常メニューのお好み焼きを食べられないけれど「家族と一緒に鉄板を囲んでお好み焼きを食べたい」と相談されたことだったそう。
オーナーの杉浦和歌子さん(以下杉浦さん):まずはお好み焼きから動物性のものを抜いて作ってみたんです。そうしたら、ソースの味ばっかりするものになってしまって……。そこから半年ほど、玉木さんにも相談しながら研究を重ねて、動物性のものを使わずにおいしいお好み焼きが作れました。生地の配合には一番苦労しましたね。
当初はその方が来店した時だけ特別に提供していたのですが、多様性の時代でもあるし、求めている方は多いかもしれない、と通常メニューとしての提供に踏み切りました。
ヴィーガンメニューはお好み焼きだけでなく幅広くラインナップ。写真手前の料理も生麩や油揚げなどで、動物性食品を使っていません
杉浦さん:それから口コミがどんどん広がっていって、清水エリアで人力車の車夫さんが紹介してくださったというお客様が来た時にはびっくりしました。
子どもがいて、今まで私たちが普通に生活してきた地球を、私たちの世代が終わらせてしまうのではなく、フードロスや環境問題を考えて、今自分でできることをひとつでもできたらな、と思います。
冷凍のお好み焼きは家庭で楽しめるだけでなく、フードロスにも貢献します
足の悩みと環境問題に応えるヴィーガンレザーの靴
次に訪れたのは、ヴィーガンレザーの靴を作っている、「やさしい靴工房 belle&sofa 京都市役所前店」。
本革の構造を人工的にポリウレタンで再現したヴィーガンレザーはとても柔らかく伸縮性があり、足に優しく馴染みます。雨やカビにも強いという、本革にはない特徴も。履いてみると本当に軽く、その柔らかさはまるで足全体を優しく包み込むようです。
元々は2010年頃に最新の素材として生地を紹介され、その生地の柔らかさや丈夫さが社長の理想の「足への優しさ」を叶えるものだったことから、靴に採用することに。本革に比べて柔らかいため、靴の形を保つのが難しく、より高度な縫製技術が必要なチャレンジでした。
その後、外国人を中心にヴィーガンの方からこの靴を求められるようになり「ヴィーガンレザー」という名前で発信するようになったのだそう。
玉木さん:マッシュルームレザーやアップルレザー、京都だとコーヒーレザーなんていうものもありますが、環境にはいいものの靴としては壊れやすい素材もあります。そのなかでも、靴として完成度高く、心地よいものを作られているのがbelle&sofaさんなんです。
店長の坂根賀美さん:InstagramなどのSNSで発信することをすごく意識しています。英語のハッシュタグもつけていますね。足の悩みをお持ちの方や、動物のことや環境のことを考えていらっしゃる方に、しっかりbelle&sofaの靴を届けたいです。
靴を履いて「歩く」ということは、巡り巡って環境にも優しいと思います。最後のワンマイル、車を停めて、電車やバスを降りて、歩くことでCO₂排出量を抑えることもできます。
終わりに
ヴィーガンは決して特別な人だけのものではありません。この記事でご紹介したお店のように、ヴィーガンのお好み焼きやヴィーガンレザーの靴は、京都の暮らしに自然に溶け込んでいます。
マイボトルを持つことの理由が人によって異なるように、ヴィーガンを始めるきっかけもさまざまでいい。動物性食品を摂らない日を作る、ヴィーガンメニューを試してみる、ヴィーガンレザーの製品を選んでみる。そんな小さな一歩が、私たち自身の当たり前をアップデートするきっかけになるはずです。
ヴィーガンは、私たちの未来をより良くするための、可能性に満ちている。そんなメッセージが、今回の取材を通して強く心に残りました。
靴屋
住所 :京都府京都市中京区下丸屋町404
営 :11:00~19:00
休 :火
※営業情報は2025年9月時点のものです
やさしい靴工房 Belle&Sofa 京都市役所前店の記事一覧へ >
創作鉄板居酒屋
住所 :京都府京都市中京区西ノ京北円町1−7
営 :火〜金 17:30~22:00、土・日 17:00~22:00
休 :月
※営業情報は2025年9月時点のものです
お好み焼き 創作鉄板 雅 みやびの記事一覧へ >
合同会社KYOTOVEGAN代表
出身地 京都府宇治市
株式会社バンダイにてアパレルと玩具菓子の営業と市場調査の職に。20年勤務し退職、のち子育てを経て2020年に合同会社KYOTOVEGANを設立。2017年からインスタ(@diethelper)で京都のベジ飲食店の情報をあげると国内外の方が検索に使用。自然と調和し脱炭素を取り入れるライフスタイルが必要とされるなか、歴史的な街京都ならではの視点でヴィーガンをキーワードにより良い未来をめざす。 玉木 千佐代の記事一覧へ >
ヴィーガンコンテンツの開発導入支援、店舗紹介
数ある選択肢からヴィーガンを選ぶことも認め合えて、
ライフスタイルの多様性が肯定される世界を京都から実現することを目指し、
ヴィーガンを通してどんな人も肯定される社会を考え、創り続けることで
世界で最も寛容な“京都発のヴィーガンカルチャー”を育てます。 合同会社KYOTOVEGANの記事一覧へ >
ライター
現在は、22歳年上の夫と京都で2人暮らしをしながら、フリーランスのエッセイスト、取材ライターとして活動。 このライターの記事一覧へ >