ライフスタイル転換のための仕掛け=プロジェクト
脱炭素に貢献するけど、脱炭素だけではない。
プロジェクトを通じて、
楽しい、かっこいい、ワクワクする魅力的な「変化」が起こっています。
今回は、「アートやデザインを活用したアップサイクルの実施プロジェクト」を始めた、資材循環とものの価値を考えるプロジェクト「副産物産店」の山田毅さん(只本屋)(以下、山田さん)と矢津吉隆さん(kumagusuku)(以下、矢津さん)、プロジェクトコーディネーター兼アドバイザーの有限会社ひのでやエコライフ研究所 大関 はるか さん(以下、大関さん)に、プロジェクトに対する想いについてお話を伺いました。
「アートやデザインを活用したアップサイクルの実施プロジェクト」の取組内容はこちら(https://doyoukyoto2050.city.kyoto.lg.jp/projects/vegetable-store/)をご覧ください!
芸術の「副産物」から社会の「余白」を問い直す――副産物産店の挑戦
移転が進む京都市立芸術大学のプロジェクトを起点に、芸術活動から生まれる「副産物(資材や作品の片割れ)」の循環に取り組んできた「副産物産店」の山田さんと矢津さん。活動開始から約10年、アーティストの個人活動から行政や地域を巻き込んだ公共の仕組みへと変化しつつある彼らの歩みと、これからの展望についてお聞きしました。
芸大の引っ越しから始まった「芸術資源」の循環
――まず、副産物産店が始まったきっかけや京創ミーティングとの関わりについて教えてください。
山田さん:すべての始まりは2017年、京都市立芸術大学が移転することになり、その新しいキャンパスの建築プロポーザル(乾久美子さんの建築家チーム)に僕と矢津さんが参加したことでした。大学が移転していくなかで、これまでに買い溜められた大量の備品や芸術資材がそのまま廃棄されてしまう未来が見えたんです。「これはもったいない、どうにか活用して市民に開いていけないか」と考えたのが独自のプロジェクトとしてのスタートでした。

(写真:山田さん)
矢津さん:当初は「京都市さんと一緒にやれたら面白い仕組みができるはず」と大きな期待を持って、京創ミーティングに参加したんです。でも、いざ始めてみると、行政の備品管理や物品ルールの壁が想像以上に高くて(笑)。「活用できますか?」と聞いたら「できません」という明確な答えが返ってくる。でも、「なぜできないのか」という理由について、行政側ときちんと対話の場を持てたこと自体が、最初の大きな価値だったと思っています。

(写真:矢津さん)

管理社会のなかで「余白」をどうハックするか

(写真:移動式芸術資源循環センターの構想図)
大関さん:芸術家って、どれだけ良い作品を作っても、その影でどうしても大量のごみを出してしまう現実がありますよね。でも、以前の旧キャンパスには、誰の管理でもない「とりあえず置いておける場所」があったから、学生同士で素材を譲り合ったり、面白いものを見つけて自分の作品に活かしたりする文化が自然と生まれていたんじゃないでしょうか。

(写真:左 大関さん、右 矢津さん)
山田さん:まさにその通りです。ただ、新しい芸大になって一番最初に失われたのが、その「管理されない余白空間」でした。近代的な管理システムって、どうしても「余白」を許容しないんですよね。大学から一歩外に出すことは「即捨てること」と同義になってしまう。だから僕らは、その既存の管理ルールを破らずに、どうやって「余白」を持ち込めるかを考えました。たとえば新キャンパスで食堂ができる前、キッチンカーの乗り入れルールだけは先に整備されていたんです。だったら「車なら入っていいんだ」ということで、移動式の『循環トラック』を作って学内に乗り入れました。ルールをうまく「ハック」して、その場に保留の期間を作り出すための戦いでしたね。

(写真:完成した移動式芸術資源循環センター)
「循環させるため」にやっているわけではない

――「環境のための資源循環」という側面と、アーティストとしてのスタンスには少し揺らぎがあるのでしょうか。
山田さん:僕らがよく言うのは、「循環させるためにやってるんじゃない」ということです(笑)。環境問題として「どう綺麗に回すか」という話になりがちですけど、最初から「さあ循環させよう!」とするのは、アートの文脈とは少し違うなと。
芸術の世界って、焼き物なんかもそうですけど、多くの失敗や破棄(功罪)の上に名作が生まれるという側面があります。それに、たとえ自分にとって価値のないもの(ごみ)であっても、「作家の魂や縁が宿っているから、誰かに譲るのではなく、そのまま終わらせたい」と願うアーティストもたくさんいるんです。

矢津さん:だから僕らは常に「アーティストにとってどうなのか」という視点を第一義にしています。お金のないなかで制作を必死に続けているアーティストの創作活動を制限せず、かつ出てきてしまった副産物を提供し合って彼らを支える。その結果として、環境的にも貢献できれば「なお良し」というスタンスです。
市民の「意識の変化」を生み出し、未来へ共感の種をまく

――一般の市民の皆さんやメディアを通じた広がりについても、大きな変化があったそうですね。
山田さん: 2025年に枚方市の生涯学習美術センターで開催した個展では、一般の市民の皆さんに家庭の不要品を持ち込み・持ち帰ってもらう取り組みを行いました。そこではスタッフも驚くほどのダイナミックな循環が生まれ、単に「無料で物品が手に入った」という消費的・一時的な満足にとどまらない変化が見られました。その空間での体験を通じて「次に物を買ったり捨てたりするときに、この体験を思い出そう」という、市民の皆さんの生活態度や意識そのものに働きかける大きな『心の動き』を生み出せたことは大きな成果です。
矢津さん: また、2050MAGAZINEなどのメディアへの掲載(“捨てること”、循環の“穴”を捉え直す。北山ホールセンターがアーティストやクリエイターと考え実践する、資源循環の取り組み – 2050 MAGAZINE)を通じて、こうした活動が「記事」や「コラム」としてアーカイブされる意義も実感しています。僕たちの活動は、そのリアルな現場に直接立ち会っていなくても、数年後に学生や市民の方がアーカイブ記事を通じてキャッチしてくれるケースが少なくありません。メディアを通じて情報が残り続けることは、未来に向けて「共感の種をまく」役割を果たしており、時間をかけてじわじわと関心や協力の輪が広がっていくと思います。
個人活動の限界と、行政の「受け皿」への期待

――活動を約10年続けてこられて、今まさに変化の時を迎えているそうですね。
矢津さん:アトリエを巡って副産物を集めたり、相談に乗ったりしてきましたけど、正直もう2人の個人の領域では回しきれなくなっています。梅雨時期になればストックしている資材がカビてしまったりと、物理的な保管の限界もありますしね(笑)。
それに、僕らを知らない人たちの情報はキャッチできない。だからこそ、窓口を公的に開いていくべきだと思っています。今、京都市のアーティスト支援組織である「HAPS」や、京都芸術センターの相談窓口である「KACCO」といった、既存の公共の仕組みの中に、僕らの副産物循環の取り組みを「受け皿」として組み込んでもらえないか、という思いを持っています。まだ具体的な議論に至っているわけではありませんが、こうした既存の仕組みと接続することで、取り組みをより広げていけるのではないかと考えています。
大関さん:最近は、高齢になったアーティストの「遺品整理・終活」の相談もすごく増えていますよね。
山田さん:そうなんです。団塊の世代のアーティストたちが持っている資材や作品って、僕らの世代よりずっと質が良いものが多い。でも、ご家族が亡くなられたりすると「2週間以内にすべて片付けたい」という話になる。余白も受け皿もない状態のままでは、それらの良質な資源が一気にごみとして消えてしまう。彼らがまだ元気なうちに、そういった終活の資源をしっかりと受け止める公的な仕組みを早く作ってあげないといけない、という強い危機感があります。
10周年へ向けて――都市全体に「余白」を広げる

――今後の展望や、社会実装に向けた新たな取り組みについて教えてください。
山田さん: 改めて京都市さんと一緒にモノを循環させる公共的なサービスをつくることに、取り組みたいとすごく思いますね。議論を重ねた末に、この大きな京都市という都市だからこそできる、何か面白い仕組みを生み出せたらいいなと思います。今10年ぐらい活動してきて見えてきたものもあるので、それを打ち出していきたいですね。「京都市に余白を作りましょう」というのが僕たちの大きな提案です。
矢津さん: とにかく「場所」が欲しいですね(笑)。個人で保管するのには限界があります。捨てたい人のタイミングと欲しい人のタイミングを繋ぐために、一旦保留できるストック場所が不可欠です。できればその場所でアーティストが働いていたり、集まってきた副産物から椅子などの新しいプロダクトが生み出されたりするような、日常的な場作りを京都市内にできればいいと思っています。
安田産業さんのような民間廃棄物処理業者さんとも連携しながら、捨てられるはずだったものにアートやデザインの視点を掛け合わせて価値を反転させていく。そのための議論ができる場を、私たちだけではない多種多様な立場の人たちと議論していく必要があるのかなと思います。出来ればそのためのきっかけになるような場づくりをしていただければ、いきなりやるではなく、何ができるのかを色んな人たちと話すことができればいいと思います。
大関さん:芸術家だけでなく、京都には伝統産業やクラフトなど、ものづくりに携わる職人さんや市民がたくさんいて、そこにも副産物が多く出ています。もしそんな副産物のマーケットが今後開催されることがあれば、お二人が関わることで、ただの不要品交換所ではないEveryone is Creativeのような、誰もがクリエイティブであることを思い起こせるような場にもできると思います。
矢津さん: 来年は活動開始からちょうど「10周年」という節目を迎えるので、この10周年に向けて、ぜひ一緒に何かさせていただければと思います。

(取材日:2026年7月)
資材循環とものの価値を考えるプロジェクト
美術作家・アーティストによって日々営まれる創作活動。そして創作活動から生まれる様々な「副産物」。副産物産店とは、そんな京都のアーティストのアトリエから出る魅力的な廃材を”副産物”と呼び、回収、販売するプロジェクトです。山田毅(只本屋)と矢津吉隆(kumagusuku)が考案した資材循環のための仕組みであり、ものの価値、可能性について考えます。2022年より足立夏子(mosynē)が参加し、3人で活動を行なっています。 副産物産店の記事一覧へ >

