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「脱炭素修学旅行」プロジェクトチームさん
インタビュー・文:オギユカ
撮影:佐々木 明日華
Interview2026.03.31
Vol. 30
探究学習時代に京都で学ぶ。「脱炭素」修学旅行がまく、未来への種
2026.03.31
インタビュー・文:オギユカ
撮影:佐々木 明日華
歴史的な風情が色濃く残る古都、京都。
修学旅行の聖地として知られるこのまちには、年間約75万人(※令和6年時点)もの修学旅行生が訪れます。国内の2人に1人は京都の修学旅行を経験するとも。

これまでの修学旅行といえば、有名なお寺など名所旧跡を巡り、日本の歴史や文化に触れることが定番のスタイルでした。しかし今、その中身が変化を遂げようとしています。
目次

京都のまちで探究する「Q都スタディトリップ」

「Q都(キュート)スタディトリップ」という取り組みをご存知でしょうか?「Q都スタディトリップ」は京都で考える、SDGs探究学習コンテンツです。

Q都スタディトリップWEBサイト:https://q-sdgs.kyoto.travel/

京都は1200年もの間、ひとつのまちとしてあり続けました。その長い歴史のなかでは、地震や火事・洪水などの自然災害、飢饉や疫病の流行、戦争、人口流出など、数々の危機を乗り越えようとたくさんの「工夫」が生まれてきました。この京都の工夫に出会った時、「なんでだろう?=Q」と疑問を持ち、これからの未来に向けて「どうしよう?=HOW」を考える、学びの旅が「Q都スタディトリップ」です。

 

新しく加わった「脱炭素修学旅行」

そんな「Q都スタディトリップ」の新たな探究領域として、2025年に「脱炭素」が加わりました。

京都は「京都議定書」の誕生の地として、積極的に地球温暖化対策に取り組んできた背景があり、2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにするという目標のもと、さまざまな脱炭素のアクションが広がっています。

こうした取り組みから、身のまわりの暮らしや仕組みなどを見つめ直すヒントを得る学習の旅が「脱炭素修学旅行」です。

移動にはEV(電気自動車)タクシーを選び、食事には地産地消や植物性由来の食材で作られたヴィーガン食を楽しみ、さらに京都市内に点在する脱炭素転換を進めるスポットを巡る。こうした一連の体験を通じて、誰かの取り組みではなく自分ごとへと結びつけていく。それが、京都市の目指す「脱炭素修学旅行」の姿です。

 

修学旅行を「観光」から「未来の種まき」へ

「脱炭素修学旅行」について探るべく、まず足を運んだのは、京都市役所です。ここで、産業観光局観光MICE推進室の吉田さんと、環境政策局地球温暖化対策室の谷口さんに話を伺います。谷口さんはまず、このプロジェクトのはじまりについて語ってくれました。

写真左:地球温暖化対策室 谷口さん、写真右:観光MICE推進室 吉田さん

「環境省が進めている『脱炭素先行地域』という日本全体の取り組みがあり、2022年に京都市が採択されました。2030年までに特定の地域で民生部門の電力消費に伴うCO2排出量を実質ゼロにし、そこで得た知見を周囲にドミノ倒しのように広げていくことがこの取り組みの目的です。京都には年間約75万人もの修学旅行生が訪れ、市民の1割が大学生です。この特別な環境こそが、脱炭素の知恵を全国へ広げるための『最初のドミノの一枚』になるのではないかと考えました」

谷口さんの視線は、ここを訪れた若者たちが地元へ持ち帰るポジティブな変化に向けられていました。しかし、学校現場のニーズも変わってきています。修学旅行誘致の担当者である吉田さんは、教育の現場で起きている変化を肌で感じていました。

「学習指導要領が変わり、学校現場では『探究学習』が強く求められるようになりました。先生方からも、ただ観光するだけでなく、生徒が自ら問いを立てるきっかけが欲しいという声が大きくなっていたのです」

「京都は1200年以上続くまちですが、その歴史は決して平坦ではありませんでした。時代を超えて、さまざまな災害や困難を、人々の知恵と工夫によって乗り越えてきました。そうした工夫こそが学びの源泉です。私たちはそれを『Q都スタディトリップ』というコンセプトにまとめました。そこに脱炭素という新たなコンテンツが加わったことで、京都の多面性をより深く学んでもらえるはずです」

実は観光地の混雑などの影響で、一部では「京都は混んでいるから他の地域へ行こう」という動きも出始めています。しかし、吉田さんはそれを危惧しながらも、新しい学びの可能性を見出していました。

「修学旅行は、人生で一回か二回の特別な経験です。観光の楽しさをベースにしつつも、そこから一歩踏み込んで、地域の人や大学生と関わる機会をつくる。それにより修学旅行生が将来、京都観光のリピーターになったり、就職や就学で京都を選んでくれたりするような、長期的な関係を築くきっかけになればいいなと考えています」

谷口さんもその言葉を補強するように、2050年という未来のタイムラインを引き合いに出しました。

「カーボンニュートラルを実現する2050年に社会の第一線で活躍しているのは、今の修学旅行生たちの世代です。彼らが希望を持てる社会にするためには、今、環境に関する学びの機会を提供することが私たちの役割だと考えます」

 

落ち葉から始まった「もったいない」の循環。立命館大学キャンパスツアー

京都市役所で「脱炭素修学旅行」の全容を知った後、巡るスポットの一つ、京都市・北区の立命館大学衣笠キャンパスへと向かいました。ここでは「脱炭素立命館大学キャンパスツアー」という、ユニークなプログラムが展開されています。

このツアーの核となっているのは、単なる施設の見学ではありません。一足先に環境問題と向き合っている大学生とともにキャンパスを歩きながら対話する体験です。特に注目したいのが、学生サークル「きぬがさ農園 Kreis(クライス)」の活動。そこには学生たちが泥にまみれて作り上げた「循環の最前線」がありました。

写真左上:大学職員 櫻井さん、左下:大学職員 灘さん、右上:Kreis 中鉢さん、右下:Kreis 菅さん

キャンパスを出て徒歩数分の農園を訪ねると、土の匂いとともに、学生たちと近隣地域の方々の笑い声が聞こえてきました。ここで展開されているのが「きぬがさ農園Kreis」による資源循環プロジェクトです。この活動を長年支えてきた大学職員の櫻井さんは、その始まりを振り返ります。

「衣笠キャンパスは山に近く樹木が多いので、秋になると膨大な落ち葉が出るんです。これらは有料で処分していて、多額の費用がかかっています。ところがある日、一人の女子学生が言ったんです。『この落ち葉って、もったいないですね』と。その素朴な疑問がすべての始まりでした」

一人の学生が抱いた「もったいない」という違和感。それがきっかけとなり、落ち葉を腐葉土に変え、キャンパス内で野菜を育てるという、地産地消の活動が動き出しました。活動が始まってから6年経った現在、この輪は70名規模の学生サークルへと成長しています。「脱炭素修学旅行」を組み立てた大学職員の灘さんは、修学旅行生がここを訪れる意義をこう語ります。

「落ち葉から土を作り、野菜を育てて食堂で提供するというストーリーは、小中学生にとって非常にわかりやすい。『脱炭素修学旅行』というお題に対して、当初は環境学などを専門とする教員による講義も検討しましたが、年齢の近い学生から学ぶ方が、子どもたちには圧倒的に響くだろうと。だからこそ、学生主体の体験プログラムにこだわりました」

Kreisで活動している学生の中鉢さんと菅さんは、修学旅行生たちを迎える先輩でもあります。中鉢さんは、自分の環境への意識が変わっていったプロセスを率直に明かしてくれました。

「実は、最初は環境問題にそれほど興味があったわけではなくて、地域の方と交流できるのが楽しそうだなと思ってサークルに入ったんです。でも、実際に土を触っているうちに、環境への取り組みが『意外と身近で、気軽に、しかも楽しみながらできるもの』だと気づきました。以前はどこか遠くの難しい話だと思っていたことが、気がついたら自分たちの活動の延長線上にあった、という感覚です」

菅さんも、活動を通じて得られる手応えを語ります。

「最もやりがいを感じるのは、野菜を収穫するときです。みんなで一緒に、ずっと面倒を見てきた活動が実を結ぶ瞬間ですから」

この活動は、単なる環境活動を超えて、地域コミュニティの再生という副産物も生み出しています。櫻井さんは、活動を通じて生まれたエピソードを教えてくれました。

「農作業に参加してくださる地域の方の中には、最初は杖をついて歩いていた高齢者の方もいらっしゃいました。ところが、学生たちと交流しながら土を触っているうちに、いつの間にか杖なしで歩けるようになられたんです」

学生の菅さんは、活動をきっかけに地域の神社とご縁ができ、学生たちが毎年お祭りで神輿を担がせてもらっているという話もしてくれました。資源の循環が、結果として人の健康や交わりも生んでいる。これこそが持続可能な社会の姿なのかもしれません。

農園を案内してくれた学生たちは、自分たちが作った腐葉土を見せてくれました。それは単なる土ではなく、数年間にわたる試行錯誤と、地域の人々との対話が積み重なったものです。中鉢さんは、修学旅行生たちに伝えたいメッセージとして、こう結びました。

「落ち葉の堆肥づくりをそのまま地元で再現してほしいわけではなく、何か一つでも、自分たちにできることをやってみようという気持ちを持ち帰ってもらえたら嬉しいです」

 

京都から広がる「自分ごと」のドミノ

京都市役所で聞いた「ドミノ」という言葉と、立命館大学の農園で見た学生たちと地域の方々の笑顔。このふたつが繋がったとき、京都の脱炭素修学旅行が目指す姿が見えた気がしました。

2050年のカーボンニュートラルというビジョン。それを支えるのは、高度な技術や制度だけではありません。一人の学生が抱いた「もったいない」という純粋な問いや、児童生徒が大学生の姿を見て感じる「自分たちにもできるかもしれない」という小さな確信。そんな一人ひとりの心に灯る火こそが、ドミノを倒す力になりえます。

京都のまちは1200年の間、幾多の困難を乗り越えてきました。その知恵のバトンがいま、脱炭素という現代の課題を介して、次世代へと手渡されようとしています。修学旅行という一生の思い出となる貴重な体験を通じて、京都の多面性に触れ、社会や環境を自分たちの手でより良くできるという手応えを掴む。

伝統ある神社仏閣に加え、学生たちが土に触れ、未来を語り合う。そんな京都の新しい風景は、いつか日本中のまちに持ち帰られ、それぞれの形で芽吹いていくことでしょう。

ツアー概要

脱炭素 立命館大学キャンパスツアー

~学生たちの取り組みから学ぶ脱炭素~ 大学生が主体となって行っているカーボンニュートラルの取り組みを実際に見て・学び・体験できるプランで、修学旅行を含む研修旅行で利用いただけます。内容は、太陽光パネルの見学から、キャンパス内での堆肥や腐葉土づくりの現場の訪問、大学食堂で食物循環システムを学んだりなど盛りだくさん。案内役は現役大学生が行い、ツアーに参加する生徒の目線から大学キャンパスの裏側も分かりやすく楽しく紹介します。

  • 実施期間:通年(※受入不可期間あり)
  • 場所:立命館大学 衣笠キャンパス
  • 所要時間:約80分
  • 対象:小学生及び中学生
  • 定員:最大20名/回
  • 販売価格:1,500円/人
  • 申込方法:下記のいずれかの方法でお申し込みください

①JTB京都支店に電話で申し込み(075-365-7724)
②LINK KYOTO HPから申し込み(https://link-kpjt.com/sdgs/

※PDF資料の詳細をご覧になりたい方は下記のURLから
https://drive.google.com/file/d/10XCOLP-DOa6AMUU7qrkoNu671TLU8Jqh/view

運営  株式会社JTB京都支店
実施  学校法人立命館
協力  エムケイホールディングス株式会社

Profile
「脱炭素修学旅行」プロジェクトチーム

京都市、修学旅行に関わる事業者、そして立命館大学の学生など、京都の未来を創る多様なメンバーによる共同プロジェクト。次世代に持続可能な観光の形を提案しています。
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Writer
オギユカ
ライター
1992年早生まれ、埼玉・鶴ヶ島出身。2021年から京都在住。空間デザイン、Webデザイン、デザイン雑貨の通販会社などで働き、8年間、企業広報・サービス広報・採用広報を中心に書く仕事の経験を積む。
現在は、22歳年上の夫と京都で2人暮らしをしながら、フリーランスのエッセイスト、取材ライターとして活動。
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